円高を背景に日本企業の海外直接投資が増加している。とりわけ、アジア地域への投資の流れが加速している。2011年の日本の対外直接投資は9兆1262億円と前年に比べ85%増と著増した。アジア向け投資は64%増、米国向け45%増、欧州向けは大型のM&A案件も寄与し146%増となった。アジア向けの中身をみると、インドネシア7倍、タイ3倍、ベトナム2.4倍、中国向けも60%増となっている。今年に入ってからもこの動きは続いている。12年上半期をみると、4兆7800億円と前年同期比75%増となっている。とりわけ、米国向けは、日本企業による米国企業の買収の影響もあって、1兆3000億円と5.3倍に増加、成長するアジア向けの投資は1兆6300億円と前年比51%増加している。とりわけ、ベトナム、インドネシア向けの増加が目立ち、中国向けも堅調である。

図表1 日本の対外直接投資   単位:億円
図表1 日本の対外直接投資

(出所:財務省国際収支統計より。数字はネットベース、—はネットで減少)

日本のこれまでの対外直接投資の動きをみると、日本のバブル期の最終局面だった1990年、三菱地所がNYマンハッタンのシンボルであるロックフェラーセンターを、ソニーがコロンビアピクチャーを相次いで買収するなど、ジャパンマネーが席捲、投資額は7兆3500億円とそれまでの最高を記録した。この年の海外投資は、不動産・金融など非製造業が投資の中心となり、全体の4分の3を占めた。その後も、この年の投資額を長年越えられず、2007年になってようやくこの水準を上回り、8兆6600億円を記録した。07年は、資源価格高騰もあり、鉄鉱石・石炭等の鉱山の権益獲得のための投資がブラジル、オーストラリアで急増した。08年はさらに大幅に増加し、前年比50%超の13兆2300億円を記録し、今までの最高となった。特に北米、中南米、大洋州向け投資が大きく伸びた。09年は世界的な金融危機の影響もあって、企業は守りの姿勢に徹し、投資額は7兆円弱に減少、10年はさらに減少し、5兆円弱となったが、11年には、円高を利用した日本企業による海外企業の積極的な買収もあって9兆円強と著増した。

ここにきて日本からの直接投資が、内需型産業といわれたサービス産業にまで広がっている。外食、小売り(スーパー、コンビニ)、アパレルなどサービス業各社の積極的な海外展開が目立つ。外食各社はこれまで中国市場を中心に展開してきたが、賃料、人件費が高騰し、投資収益を圧迫しつつあることから、東南アジア地域への出店が加速している。アパレルも低価格品を中心に中国に集中する生産体制を見直す取り組みを進め、生産拠点のASEAN諸国へのシフトが行われている。

所得水準の向上からモータリゼーションの進むインドネシアでは、自動車、金融・保険分野の投資が目立つ。旺盛な個人消費もサービス産業にとって魅力だ。フィリピンでは、2010年にアキノ政権が発足して以来、国内政治が比較的安定して推移、外資企業誘致のための税制優遇策が功を奏し、今年に入って日本企業による生産拠点建設が相次いでいる。海外出稼ぎ労働者の送金が旺盛な個人消費を支えるこの国にあって、今年6月、ユニクロのフィリピンでの第1号店がマニラにオープンしている。コールセンター業務などビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)産業の成長も目覚ましい。民主化・経済改革が進むミャンマーは、アジアに残された手つかずの有望市場である。ヤンゴン近郊に計画されている経済特区の開発事業が、商社を中心とした日本の企業連合の手で進められようとしており、日本企業の投資が今後本格化しそうだ。社会インフラの整備も喫緊の課題である。

アジア、とりわけ相対的に人件費の安いASEAN諸国への投資は、これまで集中していた“中国からのシフト”と“手つかずのフロンティアの開拓”がキーワードとなる。尖閣をめぐって緊迫の度を高めている日中関係の行方は予断を許されない状況にあるが、双方の経済活動を推進していくうえで大きなブレーキとならないことを祈るばかりである。


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