被災後の省エネブームはアジア諸国に伝播するか

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今般の被災では、地震や津波といった自然の脅威、その後の原発を巡る危機管理の重要性を痛感させられたが、同時に節電や省エネをはじめエネルギーに関しても様々なことを考える良い機会となったのではないか。言うまでもなく日本の省エネは、1970年代の石油危機を契機として推進され、世界最高水準の省エネ技術を有する国として認識されるようになって久しい。今回の被災後はさらに、企業では一層の節電や畜電機能を持つ設備投資、家庭ではLED照明を代表とした省エネ家電やエコカーの更なる普及など、「省エネ高度化」あるいは「第2次省エネブーム」と言ってよい深化が予感される。

欧州では同様にドイツやスペインなどを筆頭に、太陽光や風力など自然エネルギーの活用や温暖化ガス排出削減に根ざした政策が打ち出され、積極的に環境配慮型の社会構築に取り組む動きが古くからある。近年ではさらに市場原理を導入し、排出量取引制度を構築するなど、環境配慮型社会の構築について多くの点で世界をリードしている様子が鮮明だ。

一方、アジア(日本を除く)ではどうか。2030年までに年平均3.5%のGDP成長率が見込まれるアジアでは、エネルギー需要が年平均2.4%(世界全体:1.5%)で伸びると試算されている(※1)。エネルギーのうち、電気の需要や供給量で見た場合でも、アジアは世界全体よりも高い伸び率が予想されている(図表参照)。もっともこのままでは、エネルギー需要増加の副産物として、外部不経済の要因となり得るCO2排出量の増加も余儀なくされる。今後「省エネ推進」の掛け声は、ポスト被災の日本に留まらず、高い経済成長及びエネルギー需要増が見込まれるアジア各国において高まることの方が重要ではないか。

図表 世界・アジアの電気需給量およびCO2排出量(見込み)

既に、ASEANの中でもシンガポールやタイでみられるように、環境法規制強化のほかエネルギー効率化などグリーン政策を導入し、環境保全には熱心な国もある。他方、その他のアジアの発展途上国では、足もとで逼迫する電力需給を満たすため、伝統的な化石燃料に依存した電源開発を進めざるを得ないが、基幹産業である農業を活かしたエネルギー供給の試みもみられるようになっている。例えば、インドネシア、マレーシアでは農産物からバイオエタノールや生産過程で派生するカスなどからバイオマスなど、再生可能エネルギーの活用にも積極的だ。しかし、アジアの途上国で共通する課題として、資源価格高騰下での予算制約や技術面での遅れなどのため、省エネ政策への思い切った舵取りができない事情もある。

以上に対し、国際機関では最近、気候変動に伴う社会経済への影響を考慮し、これまで以上に環境対策案件に対し支援を厚くする動きがでてきた。例えば、アジア開発銀行(ADB)は2013年以降、これまで年間10億ドルとしていたクリーンエネルギー事業に対する投資規模を倍増させる意向を発表、既に複数のベンチャー・キャピタル・ファンドに投資するなど技術革新に対する支援を開始している(※2)。また、国際金融機構(IFC)が途上国向けの環境配慮型事業に対する支援を目的に設立した気候変動ファンドは、既に過去3年間で1.5億ドル余りを投資してきたが、うち約74%がアジア向けである。アジア地域における省エネ進展はファイナンス面を含めて多くの施策が相次いでいる。

日本では、今次の被災に伴うエネルギー需要抑制に向けて省エネ政策が新たに打ち出されようとしているが、これに伴い、一層の技術革新や省エネ社会へ向けた各種取り組みの浸透などが進み、クリーンエネルギー供給コストの低下が進む可能性がある。国際機関等でのクリーンエネルギー振興策や取り組みが、日本の技術革新やエネルギーコストの低下と相俟ってアジアの省エネ化の進展速度が一気に高まる、今般の被災がその本格的な契機となればと願うのは筆者だけではないだろう。

(※1)国際エネルギー機関(IEA)の試算による
(※2)アジア開発銀行(ADB)”ADB Invests in Three Climate Change Technology Venture Capital”, (2011年5月23日付 ニュース リリース)


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