東南アジアの大国 インドネシア経済の魅力

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投資先としてのインドネシアに対する関心が高まっている。ジェトロの日系企業調査 (※1)によると、自動車・二輪車、家電製品、食品・飲料、生活用品、医薬品などの産業分野が今後も堅調な伸びが期待できるという。また、企業による設備投資増に伴う資金需要の拡大が期待される銀行、インフラ整備関連で建設や機械プラント、情報通信なども有望視されている。

確かに、昨年ユドヨノ大統領が再選し、かつて最大のリスク要因とされた政治の安定性は国際的な評価を得るまでになっている。特に政治的に金融・経済政策運営の体制を整えたことは海外から好感される大きな材料となっている。例えば政権二期目の側近として、経済問題調整担当相、中央銀行総裁等を歴任したボエディオノを副大統領に、工業大臣としてインドネシア商工会議所(KADIN)前会頭を招聘するなど、国際的な信任が厚かったムルヤニ前財務大臣を失った影響はほとんどなさそうだ。

魅力が増しているもう一つの理由としては好調なマクロ経済環境が挙げられる。中国やインドなど大国には及ばないが、最近5年間の平均経済成長率(実質)は5%台後半で安定的に推移している。世界屈指の埋蔵量を誇る天然ガスや石炭などが牽引役となり輸出規模は年々拡大しているが、インドネシア経済の成長ドライバーは世界第4位の人口2億3,000万人に裏付けられる個人消費などの内需であり、それが大きな強みでもある。また、好調な経済を後押しするように金融・資本市場の整備も進展しつつあり、なかでも株式市場は特筆に値する盛況ぶりだ。2年前の世界金融危機発生時にジャカルタ総合株価指数は大きく下落(最大6割近く)したが、実物経済への影響が軽微だったことが好感され、2009年以降は大幅な外国人投資家の買い越し状況が続いている。これにより、アセアン諸国の中でもいち早く危機前の状況を回復し、足元では過去最高値を更新し続けている。

さらに、他のアジア新興国同様に整備の遅れは否めないものの、海外からの直接投資増の鍵を握る道路や電力などインフラ整備に関する展望も明るさを増している (※2)。これまで財政の健全化が優先され大規模な財政支出を抑制してきた政府だが、昨年70兆ルピア(約7,000億円)規模の財政出動を行い、景気刺激の一環でインフラ整備に意欲的になっている。また、東アジア首脳会議のアジア総合開発計画構想でも、他のアセアン諸国と道路網等を結ぶ「インドネシア経済回廊」建設が打ち出されるなど、インフラ整備・開発がアジア域内協力として強化される動きもある。

一方、現在の好況トレンドを持続させ、今後さらなる経済発展を実現させるためには克服すべき課題も少なくない。例えば、投資環境の改善は重要課題の一つである。インドネシアは世界銀行が毎年発表するビジネス環境ランキングで183カ国中121位に甘んじている(図表)。現状、世界で最も「ビジネスがし易い」と評価されたシンガポールを筆頭に、タイ、マレーシアなど他のアセアン諸国に大きく差をあけられている。貿易や投資家保護などの面では相対的に高評価を獲得する半面、起業・廃業、納税や諸契約などビジネス上必要な諸手続きに関しては、その複雑さや長期のプロセスを要する点が大きなマイナス評価となっている。タイやベトナムが改善を実現してきたように、ワンストップサービスの導入による諸手続きの簡素化や承認プロセスの一元化などが喫緊の課題として指摘できよう。


コスト面での優位性が低下しつつある中国、さらには他のアセアン諸国と比べ、直接投資先としてのインドネシアの最大の魅力は、経済成長の源泉が増加する中間所得層に裏打ちされた個人消費などの内需拡大が大きく期待できる点にある。インフラ開発、各種制度整備が進み、さらなる投資環境の改善が図られれば、内需が支える大国としてインドネシアの世界経済における存在感は確実に高まっていこう。

(※1)ジェトロのジャカルタ事務所とジャカルタ・ジャパン・クラブ(JJC)が現地日系企業を対象とした業況調査(2010年3月)
(※2)JBICの「わが国製造業企業の海外事業展開の動向(2009年度版)」による企業アンケートでは、インドネシアでは道路、電力、水などのインフラ整備が課題との指摘が多い。


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