アフリカで存在感増す中国企業 ~その動きが示唆するもの~

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アフリカで中国企業の存在感が増している。これは21世紀に入って徐々に本格化してきた動きだが、昨今では大手国有企業の名前が挙がるケースが増えるなど、中国-アフリカ地域の関係はより緊密化が進んでいるようだ(ⅰ)


中ア間の貿易関係は、中国からは繊維製品をはじめとする一般消費財や家電製品、工業製品など多様な低価格製品が輸出され、アフリカからは石油など鉱物資源が輸出されるという構図だ。ここで重要なのは単なる輸出に止まらず、アフリカの資源開発にかかる事業分野や道路や鉄道などのインフラ分野で、中国大手国有企業による積極的な関与が進んでいる点だ。例えば、中国政府と現地政府との合意を通じた援助や借款など各種開発資金の提供には、中国企業への発注が前提とされた案件が多い。これは資源分野や電力などエネルギー分野に限らず、建物や道路・橋などインフラの整備までを一貫して中国企業が受注し、建設機材の調達から技術者・労働者まで派遣する仕組みの構築と表裏一体をなす動きなのだ(ⅱ)


そもそも中国企業の海外進出は、純粋な企業活動の動機というより、中国政府の政策意図を大きく受けた面が否定できない。実際、中国政府はWTO加盟を控えた2000年頃から対外的な競争力強化のために、「走出去(Go Global Strategy)」のスローガンの下で企業向けに各種の奨励策を整備している。従前、「世界の工場」と位置づけられてきた中国だが、外資系製造業にとっては自国への輸出という市場が存在するのに対して、中国系製造業は“低価格・低品質”で大量生産したものを、国内市場だけで吸収しきれず、アフリカなど販売先市場を確保する必要があるためだ。また、海外拠点の設立や海外企業の買収も同時に進められている。中国は自国自身が比較的豊富な資源国だが、急速な経済成長に伴う需要増に対応できず、資源不足が生産活動のボトルネックになると懸念されている。海外の資源権益などを掌握し、需要増に対応できるだけの資源調達ルートを積極的に開発する動きの一環というわけだ(ⅲ)


現在、日本企業が途上国における資源権益確保やインフラ事業へ積極的に関与するために、日本政府による公的支援を組み込んだ仕組み造りが検討されている。途上国のインフラ事業分野には、これまでのような欧米諸国だけでなく、韓国やインド、中国などの新興国も新たな競合相手として参入を目論んでいる。上述の中国-アフリカの例に見られるように、現地政府の課題と開発目標に対して、日本政府ならびに日本企業がどう役割分担を明確化するのか。また、その上で両者が一体的な動きを果たし、どのように相手国と長期的・包括的な関係を構築していくのか、まさにこれらが重要なポイントだろう。

(ⅰ)そもそも中国とアフリカ諸国との関係は、1955年のバンドン会議で共に第三世界の構成国として協力を目指したことに始まり、その後も中国側から政府要人の訪問や、無償援助・借款が継続されてきた。21世紀に入ると、定期的且つ包括的な援助協力の協議の場として「中国・アフリカ協力フォーラム(FOCAC)」が設けられ、同フォーラムは3年毎に開催されることとなっている。直近では09年11月にエジプトで第4回フォーラムが開催され、温家宝首相がこれまでの行動計画の成果を強調(以下※1)、併せて2012年までの行動計画として対アフリカ協力の8つの措置が発表されている(以下※2)。この他、個別のアフリカ諸国と中国との2国間で要人往来が活発に行われるなど政治的な友好関係は急速に深まっており、こうした動きが経済面つまり活発な企業活動の背景にある。

※1:「FOCAC・北京行動計画(07~09年)」の成果
(1)10年までに中国・アフリカ間の貿易総額を1,000億ドルとする目標に対して、08年のうちに貿易総額は1,000億ドルを超えた。
(2)アフリカ諸国で6つの海外経済貿易合作区の建設を開始した。中国企業約1,600社がアフリカでビジネスを始め、累計直接投資額は78億ドルに達した。
(3)中国と外交関係があるすべてのアフリカの重債務国と後発開発途上国に対して、05年末までに期限を迎える政府無利子借款の債務免除がほぼ実行された。
(4)中国企業の対アフリカ投資を奨励・支持するため、220件のプロジェクトに5億ドルを投資したほか、09年1月にヨハネスブルクに中国アフリカ発展基金事務所を設立し、中国企業のアフリカでのビジネス活動を支援するために20億ドルの融資を行った。
出所:ジェトロ「中国、さらなるアフリカ支援を表明-中国アフリカ協力フォーラム」『通商弘報』,2009年12月03日

※2:対アフリカ協力の8つの措置
(1)気候変動:太陽熱、バイオガス、小型水力発電などのクリーンエネルギー事業を100件立ち上げる。
(2)科学技術:科学技術研究で100件の共同モデル事業を行い、100人の研究者を中国に受け入れる。
(3)財政支援:アフリカ諸国に対し、100億ドルの政府無利子借款を提供するほか、中国の金融機関によるアフリカ中小企業に対する10億ドルの特別融資機能の立ち上げを支援する。また中国と外交関係があるすべてのアフリカの重債務国と後発開発途上国に対して、09年末までに期限を迎える政府無利子借款の債務を免除する。
(4)アフリカへの市場開放:中国と外交関係があるアフリカの後発開発途上国からの対中輸出商品の95%をゼロ関税にする(10年以内に商品60%のゼロ関税を開始する)。
(5)農業:農業技術モデルセンターを最大で20ヵ所増設、中国から50の農業技術チームを派遣し、農業技術専門家2,000人を育成する。
(6)医療:中国が建設した病院30ヵ所とマラリア対策センター30ヵ所に対して、5億元(1元=約13円)相当の医療機器、マラリア対策機器を提供するほか、医師・看護師3,000人を育成する。
(7)人材育成と教育:中国・アフリカ友好学校50校の建設、校長・教師1,500人の訓練、アフリカ出身留学生への奨学金支給対象者を12年までに5,500人に拡大するほか、向こう3年間で各種分野での専門家を2万人育成する。
(8)人的・文化交流:中国アフリカ共同研究・交換プログラムを立ち上げ、学識者同士の理解を深める。
出所:ジェトロ「中国、さらなるアフリカ支援を表明-中国アフリカ協力フォーラム」『通商弘報』,2009年12月03日

(ⅱ)越川和彦「衰退する日本でないために、アフリカで企業戦士たれ!」『AFRICA』vol.49 (2009年7月・8月)

(ⅲ)一方で、アフリカ諸国では貧困層の削減や保健医療の整備・促進など多くの課題を抱えている状況が続いてきた。ただ、伝統的な社会分野の援助だけでは本質的な改善は望めず、基本的には持続的な経済発展による貧困脱却が必要という意識がある。このため、農業技術の導入や産業振興の支援、そして基盤となるインフラ整備向け投資が不可欠で、中国からの投資は大歓迎ということになる。



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