共産党大会閉幕、そろそろ「チャイナ・リスク」に再度目配りを

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2017年11月20日

  • 小林 俊介

中国において5年に1度、政治的指導者を決定する共産党大会が開催される年には、政治的に景気を底支えする誘因が働きやすいとされてきた。事実、景気循環信号指数の推移を見ると、共産党大会の年には、ほぼ例外なく景気が加速している様子が確認できる。1990年代以降で唯一例外的な動きを示したのは1997年だが、この年はアジア通貨危機の年でもある。外部環境が非常に悪かった割には健闘した、との評価が妥当だろう。

そして今回も、この「共産党大会の年は景気が加速する」という経験則が当てはまっているように見える。もちろん異論もあろう。2017年に入ってからの中国経済は、消費を中心とした内需に支えられる格好で加速を実現させている。これだけを見れば、今年は単純に景気が良いだけであり、政治的なテコ入れにより支えられた成長ではないという見方も可能だ。しかし「2017年に入ってから、中国からの資金流出がほぼ完全にコントロールされている」という事実を加えれば、この異論は覆される。2015年8月の人民元レートの切り下げを受けて先安観が高まったことや、米国の金利上昇の影響を受けて、2016年には6,400億ドル(約70兆円)もの資金が中国から純流出した。しかし2017年前半の純流出額はたったの423億ドル(約5兆円)である。

この資金流出のコントロールは2017年に入ってから政策的に進められている。この背景として、共産党大会を控えた中国政府による人民元レートの下落リスク等を抑制したいとの思惑が働いていても何ら不思議ではない。そしてこの政策的指導の結果、行き場を失くした資金が中国内に還流し、投資や消費を刺激している公算が大きい。時を同じくして仮想通貨の相場が暴騰していたことや、2016年に政策的に抑制したはずの中国の不動産価格が再高騰していたことなどは、同政策と無縁ではないだろう。そしてこうした資産市場の動きが、資産効果を通じて中国内需要を刺激してきた側面も無視できない。つまり資金流出抑制の「副作用」として2017年の中国経済が加速してきた可能性が高いということだ。

それではこの資金流出の抑制はいつまで続けられ、その「副作用」が中国経済を加速させる要因でいられるのだろうか。明確な時期は不明だが、共産党大会が閉幕した今、こうした政策を行う誘因が減衰している可能性がある。というのも、そもそも資金流出の抑制はコストを伴う政策でもある。すなわち、前述したような資産価格の高騰や、元高に伴う国際競争力の低下に加えて、海外投資機会の逸失といったコストを伴う政策に他ならない。無論、資金流出が再開したからといって中国が直ちにメルトダウンするわけでも景気後退に陥るわけでもない。しかし人民元の「上昇」が「下落」に、経済成長の「加速」が「減速」に転じる可能性は念頭に置いておく必要があるだろう。

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