ダイエットと政策に必要なこと

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2017年10月04日

最近、自分の身体のことをかなり気に掛けるようになった。昨夏、会社の医務室から体重を減らすように指導を受けたことや、自身の見た目の変化、服のサイズが合わなくなってきたことなどもあり、実際には「追い込まれた」のが正直なところである。

しかし、おかげでこの1年間で計画を大幅に上回って体重を減らすことができ、長年警告を受けるほど悪化していた健康診断の数値が著しく改善した。以前よりも日頃の疲れが溜まりにくくなり、目に見える効果が得られたように思う。唯一のデメリットは、身体に合わなくなった衣類をサイズダウンするための出費が増えたことだろうか。

最近の体重計は進化している。通信機能の入った体重計に乗ると、体重や体脂肪率などのデータがスマートフォンに送信され、自動的にデータを記録してグラフも作成する。さらに、スマートブレスレットを手首に装着すると、毎日の歩数や睡眠時間、心拍数などを測定し、同じくスマートフォンへデータを送信・記録して「見える化」する。怠惰な自分が曲がりなりにもダイエットが成功したのは、こうしたデータを「見える化」したことでやる気を持続させることができたことが、やはり大きかったように思う。

データを取ることは「職業病」のようなところもあるが、近年はこうしたデータに基づいた判断があらゆる場面で増えているように感じる。例えば、今年の経済財政白書でもエビデンスに基づいた政策形成(EBPM:Evidence-Based Policy Making)の重要性が指摘されており、最近ではデータに基づいた教育政策のあり方を説いた本がベストセラーになるなど、関連書籍も多く出版されるようになった。我々の雇用を奪うのではないかと恐れられているAIが機能するには、大量のデータが必要である。これまで職人の経験や勘で判断していた工場機械の稼働状況も、IoTを装着すればデータ化できる時代となった。もちろん、データが全てとは限らないが、今後は適切な判断を下す場面で、データを活用する機会が一層増えることになるだろう。

先週開かれた国会の冒頭で、安倍内閣は衆議院を解散し、10月22日に総選挙を実施することが決まった。争点の一つは、消費税率の引き上げ分の使途を見直し、教育無償化への財源とすることの是非を国民に問うことだそうだ。背景には、安倍政権が掲げる「人づくり革命」の推進がある。こうした人的資源へ投資することの重要性を否定する者はいないが、財源は限られている。実際に効果の高い政策から優先的に財源を配分していくためにも、データに基づいた「人づくり革命」が行われることが望ましい。

例えば、今後の技術進歩の動向を踏まえると、統計学などのデータリテラシーを強化していくことが必須だと思われる(※1)。さらに、近年その低下が指摘されている学生の読解力の強化(※2)や、我慢強さ・コミュニケーション能力などの非認知能力を引き上げること(※3)にも力点を置くべきだ。そして、人生100年時代において長く働けるように、長時間労働の削減や睡眠時間の確保等により自身の体調管理に配慮していくことも、立派な「人づくり革命」となるだろう。

自分も含めて、人は目先の誘惑や雰囲気に流されることが多い。データに基づいて立ち止まって考えることが、そうした誘惑や雰囲気から逃れる大きな力となるように思う。今回のダイエットを通じて、私自身が大いに反省した次第である。

(※1)最近は、滋賀大学や横浜市立大学でデータサイエンス学部が創設されるなど、データリテラシー向上への動きは出てきている。
(※2)国立情報学研究所・新井紀子教授によると、現在の中高生には教科書に書かれている文章の意味が理解できずに、既に勉強を行う前の段階で躓いている学生が非常に多いことをデータに基づいて指摘し、まずは中学レベルの教科書の内容が理解できるような基礎的な読解力の強化が重要だと述べている。詳しくは、新井紀子[2016]「AIが大学入試を突破する時代に求められる人材育成」、内閣府 第3回2030年展望と改革タスクフォース(2016年10月27日)資料3新井委員提出資料(http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/2030tf/281027/shiryou3.pdf)を参照されたい。
(※3)勉強面以外のこうした能力が生涯所得に大きな影響を与えることが、近年の教育経済学などの研究で分かってきている。

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溝端 幹雄
執筆者紹介

経済調査部

主任研究員 溝端 幹雄