SDGsな旅行で地元経済活性化と環境保全に貢献しよう

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2017年08月17日

観光旅行の増加は日本のみならず世界的な現象で、UNWTO(国連世界観光機関)によると国際観光客到着数は7年連続で増加しており、2016年には12億3,500万人となった。UNWTOの2016年の年次報告によれば、観光産業は現状でも世界のGDPと雇用のそれぞれ10%を占め、また世界の輸出の7%を担う一大産業だが、2030年の国際観光客到着数は18億人までさらに拡大する可能性があるという。

国連は2017年を「開発のための持続可能な観光の国際年」と定めている。「持続可能な」と言えば、国連で2015年に採択された「持続可能な開発目標:SDGs(Sustainable Development Goals)」が想起されるが、まさしくそのSDGs実現のために観光産業はどのような役割を果たすことができるか考え、それを推進することが「開発のための持続可能な観光の国際年」の主眼である。

2030年までに達成するべきSDGsとして17の目標が設定されている。このうち、8番目の「働きがいも経済成長も」と、12番目の「つくる責任つかう責任」、14番目の「海の豊かさを守ろう」の目標達成の担い手として観光産業が指名されている。しかしながら、UNWTOは観光産業はより大きな役割を果たす可能性を秘めていると考え、17目標のすべてに貢献できるような「持続可能な観光」の推進を構想している。確かに、観光業は雇用創出の担い手となり、地場産業を振興させ、持続的な経済成長の実現を通じて、貧困問題の解決や住み続けられるまちづくりに貢献することができる。また、外国旅行で多様な文化や価値観に触れることは、相互理解を深めることにもなろう。

もっとも、「持続可能な観光」の推進には観光産業の取り組みだけでは不足である。非日常を楽しみたいという観光旅行の動機の中には、豪華な食事やホテル、使い放題のタオルなど普段とは違うぜいたくを楽しみたいという動機も存在する。それに対して、地元の食材を使った普段の食事を楽しむ、水資源の無駄遣いはせずといった価値観への賛同者をいかに増やすかが大きなカギとなる。「持続可能な観光旅行」を通じて、地元経済の活性化や環境保全に貢献できるという具体的な成果を分かりやすく説明することがまず必要であると考える。同時に「持続可能な観光旅行」をしたい旅行者に対して、ホテルや食事の選択の基準となる情報の提供も有用だろう。

ちなみに欧州では「持続可能性」に対する意識が比較的高く、「持続可能な観光旅行」に対する関心も高まりつつある。欧州の旅行者は「内弁慶」の傾向が強く、2015年の統計では欧州外への旅行は全体の12%に留まるものの、訪日外国人旅行者の統計で欧州からの旅行者も増加傾向にある。日本を訪問する欧州からの観光客は「ここでしかできない体験」を求めて、都会での買物よりも、地方で自然に親しんだり、伝統工芸に触れたり、地元の人と交流したりすることを好む傾向が高いとされる。「持続可能性」に重点を置いたツアーの企画、宿泊施設や食事に関する情報提供を行うことでさらに観光客を呼び込むことにつながるのではないだろうか。

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山崎 加津子
執筆者紹介

金融調査部

金融調査部長 山崎 加津子