AI時代の"OI(オリジナル知能)"の正しい進化の重要性

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2017年08月10日

FinTechが実験から実用に向けて動き出す中で、実際の業務プロセスの中で、いかに人工知能(AI)を適用するかという議論を行う機会が増えている。既に、実用化されているものとしては、フロント業務を担うロボアドバイザーから、バック業務での顧客への対応をサポートする人工知能チャットボットまで、AIの業務プロセスへの適用範囲が拡大している。

一方、その議論の中で、ヒトとAIの連携における課題も挙がっている。AI導入の目的は、金融業の中では、業務の効率化とともに、付加価値生産性(一人当たり利鞘、手数料などを生み出す力)の向上の両方を追求することであると考えられる。つまり、相対的に付加価値の低い業務がAIによってリプレースされたことで、ヒトを付加価値の高い業務に配置転換し、生産性が向上できるかが最大の課題となる。AIによる省力化・自動化がなされて、ヒトの能力が落ちてしまっては本末転倒である。

そこで、ヒトが本来有している知能という意味である(筆者の全くの造語であるが)“オリジナル知能(OI)”の育成・発達が重要となろう。今後、金融機関の経営者は、事業環境が変化していく中で、OIが発達した多種多様な生産性の高い人材プールを構築することが重要となる。従業員にとっては、働き方改革の中で自らの生産性を高めていく必要があることから、自身のOIを教育によっていかに進化させていくかがポイントとなろう。

この点を踏まえると、OIにも、AIの“ディープラーニング”のような“教育”が必要であろうが、その根本とすべきは「正しい考え方」である。AIは、ゲームのルールが一つである中での構造化データを活用した“正しい”勝ち方は得意であるが、ルールが複数かつ解釈が必要になる“ヒトの社会”の構造化データ・非構造化データが入り混じる世界において、AIがディープラーニングによってヒトが求める社会的に“正しい成果”を出すことは難しいと考えられている。哲学的になるかもしれないが、AIは“社会的に正しく考えるフレーム(枠組み)”という概念がないからと言われている。

ヒトももしかしたら、先人が積み上げてきた社会的・道義的に「正しい」という概念が、AIに代表されるこれまでの省力化・自動化のテクノロジーの進化によって、失われている可能性があるのではないか。この点について、筆者の共著「JAL再生」の中でも触れている日本航空の「JALフィロソフィ」の以下の「成功方程式」(※1)の中の最初に出てくる考え方が重要になると思われる。

「成功方程式 (人生・仕事の方程式) 人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」

この方程式のポイントは掛け算であることである。つまり、「考え方」が「正しく」なければ、いくら熱意があっても、能力があっても、人生・仕事の結果が生まれないことを意味する。このため、ヒトのOIには過去から脈々と受け継がれてきた正しい考え方の“ディープラーニング”が必要ではなかろうか。

AIがヒトの知能を超越することで発生する事象である“シンギュラリティ(技術的特異点)”とされる2045年までには時間があるものの、既に、従業員にマイクロチップを埋め込む企業が出始めていたり、Facebookのチャットボット関連の研究開発プロジェクトの中で、AI同士が、自分達しか理解できないオリジナルの言葉を使ってコミュニケーションをし始めたため、プロジェクトが中止に追い込まれたり(※2)、という事象が発生している。AIの進化は止められないとされる中、ヒトの本質であるOIの“正しい”進化がさらに求められていると言えるのではないか。OIの進化がなければ、AIの下した判断を受け入れるしか能がないヒトになってしまう。これも進化の一つと言われればそれまでだが。

(※1)「JALフィロソフィ」(http://www.jal.com/ja/outline/conduct.html)。2部構成の第1部に「すばらしい人生を送るために」とあり、その第1章が「成功方程式」、第2章が「正しい考え方をもつ」。
(※2)2017年7月31日The Independent, “Facebook’s Artificial Intelligence Robots Shut Down After They Start Talking to Each Other in Their Own Language”

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内野 逸勢
執筆者紹介

金融調査部

主席研究員 内野 逸勢