介護ロボットは誰のもの?

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2017年04月25日

介護現場へのロボット導入が進んでいる。最近では、アザラシ型のセラピーロボットや高い会話力を備えたコミュニケーションロボットが、高齢者施設で利用されている光景を目にする機会も増えた。人手不足が深刻な介護現場の負担を減らすため、また認知症の予防・改善効果を期待して、さらに、本格化するアジア諸国の高齢化を見据えて、今後も介護ロボット開発は促進される見込みである。

特に、2013年6月に閣議決定された「日本再興戦略」で「ロボット介護機器開発5ヵ年計画」(以下、5ヵ年計画)が掲げられて以降、介護ロボットの開発は大きく進展している。5ヵ年計画では、①移乗介助(※1)、②移動支援、③排泄支援、④認知症の方の見守り、⑤入浴支援、を開発の重点分野に据え、ロボット介護機器市場を2020年までに約500億円規模に拡大させることを目指している。

これまで介護の現場では、高額な介護ロボットの購入をためらうケースも多かったが、2016年2月からは「介護ロボット等導入支援特別事業」の対象となる機器であれば、1施設・事業所につき300万円までが補助されるようになっている。また、ロボット機器を導入する事業所に対して、介護報酬を加算することなども検討されているようだ。コスト面での介護ロボット導入のハードルは、低くなりつつあると言えよう。

ところで、介護ロボットは、メーカーや介護する側のニーズに対応して開発・導入されやすいように思われる。前出①~⑤の重点分野も、施設介護の負担軽減や効率化を目的とするものが多い。しかしながら、一層の普及を促すのであれば、介護される側のニーズに応えていくことも重要な視点であろう。

例えば、冬が長い北欧のスウェーデンでは居住空間を大切にしている。「特別な住居」と呼ばれる要介護認定者が暮らす施設であっても、各居室は思い出の写真や絵画で飾られ、心地よく整えられている。そのため、いくら便利であってもベッドルームに排泄支援機器が設置されることはない。高齢者が望まないため、開発自体がそもそも行われていないという(※2)。一方で、腕時計型のアラームが普及している。これは緊急時に介護士に連絡ができるだけでなく、付属するセンサーが身体の異常を感じ取った場合にも通報される仕組みになっており、高齢者の自宅での自立生活を大きく支えている。これらは、介護が必要になっても、可能な限り自分らしい生活を継続することが重視される、同国の介護方針を反映した機器導入のあり方と言えよう。

日本では、介護施設不足のために施設に入居できない高齢者が多い。さらに、介護が必要になった場合でも、現在の住まいのままで介護を受けたい、また、家族に負担をかけたくない、と考える高齢者は少なくない(※3)。もちろん、人手不足が深刻な現場の負担を軽減するようなロボット技術は重要だが、在宅介護を推進する日本であればなおのこと、高齢者の自宅での自立生活を支援し、重症化を予防するような技術開発についても、もっと注目されてよいのではないだろうか。介護する側と介護される側、双方のニーズに沿うような介護ロボット機器の開発・導入を期待したい。

(※1)ベッドから車いすなどへの移乗の介助のこと。
(※2)株式会社 日本総合研究所「平成25年度経済産業省 ロボット介護機器開発・導入促進事業(ロボット技術の介護利用に関するニーズ及び主要国動向調査事業)報告書」平成26年3月
(※3)内閣府「介護保険制度に関する世論調査」平成22年9月調査

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執筆者紹介

政策調査部

研究員 石橋 未来