ダイバーシティは企業の活力につながるか?

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2017年02月14日

  • 物江 陽子

今日はバレンタイン・デイ。チョコレートを贈ろうかな?もらえるかな?とそわそわしている方もいるかもしれない。欧州起源の、愛する人に気持ちを伝える記念日は、日本では主に女性が意中の男性にチョコレートを贈る日として定着した。もっとも今では、職場の上司や同僚に贈ったり、友だちや家族にプレゼントしたりといろいろなかたちがある。意中の人が異性とは限らない。女性が女性に、男性が男性にチョコレートを贈るケースもあるだろう。ある調査では、日本でLGBT(※1)層に該当する人を7.6%と推定している(※2)。このように様々な面で人材の多様化が進むなか、企業経営においても、多様な人材をいかに経営に活かすのかが重要なテーマになりつつある。

しかし、多様な人材の登用(ダイバーシティ)は必ず、企業の活力向上につながるのだろうか? このことを考えるうえで、少し古いが、興味深い研究がある。カリフォルニア大学で、多様な文化的背景を持つ構成員による「多文化チーム」と、同じ文化的背景を持つ構成員による「単一文化チーム」の生産性を観察したところ、単一文化チームは平均程度の生産性を示す傾向が見られたのに対し、多文化チームは生産性が高低に二極化する傾向が見られたという(※3)

経営学者アドラー氏はこの研究を引きながら、多文化チームが高い生産性を上げるためには、メンバーが国籍や民族といった属性でなく、タスクに関連する能力で選ばれていること、メンバー間の文化的な違いが無視されていないこと、メンバーがビジョンや目標を共有していることなどの条件を満たす必要があることを指摘している。

この研究を援用すれば、ダイバーシティが企業の活力向上につながるためには、単に多様な属性のメンバーを集めても、意味がない。そうではなく、企業のミッションのために必要なタスクをあぶり出し、そのタスクに必要な能力を持つメンバーを属性にとらわれず多様な人材プールから選ぶこと、候補者が女性や外国人、LGBTであることなどで何らかの壁があるのなら、その壁を取り除き、各人が生産性を上げやすい環境を整えることが、重要となろう。このところ、「ダイバーシティ推進」から一歩進んで、「ダイバーシティ&インクルージョン」を掲げて、取組みを進める企業も増えてきた。インクルージョンとは、多様な人材を多様なまま、組織に包摂する施策である。女性や外国人の登用比率などは結果でしかなく、ダイバーシティ経営のポイントは、多様な人材を組織に包摂し活力につなげる、インクルージョンの施策にあるのかもしれない。いずれにせよ、少子高齢化が進むなか、日本企業が今後も質の高い労働力を確保するためには、採用における人材プールの多様化をさらに進めざるを得ないだろう。企業経営においても、社員の多様性を活かす知恵と工夫がますます求められている。

(※1)レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーの略称。
(※2)電通(2015)「電通ダイバーシティ・ラボが『LGBT調査2015』を実施」
(※3)カリフォルニア大学ロサンゼルス校で1977年から1980年にかけてキャロル・コバッチ博士により行われた800名のMBAの学生を対象とする調査による。N.J.アドラー(著)、桑名義晴、江夏健一、IBI国際ビジネス研究センター(訳)(1996)『異文化組織のマネジメント』セントラル・プレス

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