新たな時代を迎えた日本のESG投資

RSS

2016年12月14日

  • 伊藤 正晴

2016年11月8日付で日本サステナブル投資フォーラム(JSIF)が公表した「第2回サステナブル投資残高アンケート調査」によると、国内機関投資家によるサステナブル投資合計額は56.3兆円であった。この調査は、国内の機関投資家を対象にアンケート調査を行い、原則として2016年3月末時点での運用資産額を調べたものである。2016年1月15日付で公表された第1回調査でのサステナブル投資合計額は26.7兆円で、アンケートの回答社数が異なっているなど単純には比較できないが、サステナブル投資の拡大がうかがえる。また、サステナブル投資残高が総運用資産残高に占める割合は、第1回調査では11.4%であったが、第2回調査では16.8%にまで高まっている。

これまで、サステナブル投資は欧米を中心に拡大し、日本では限定的であるとされていた。実際に欧米でのサステナブル投資残高を調べると、欧州は2015年末で11.0兆ユーロ(約1,350兆円)となっている(※1)。また、2014年の調査ではあるが、欧州におけるサステナブル投資残高は運用資産全体の58.8%を占めるとされ(※2)、日本に比べて非常に高い。米国のサステナブル投資残高は、2016年初で8.72兆ドル(約990兆円)とされ、運用資産総額の22%を占めるようである(※3)。調査対象のカバレッジの違いなどもあろうが、日本のサステナブル投資の市場規模は欧米に比べるとまだまだ小さいようである。ただし、運用資産全体に占める比率では、米国の水準には迫りつつあると言えよう。

サステナブル投資は、環境や社会などの持続可能性(サステナビリティ)の向上に資することを目的としており、責任投資とも呼ばれる。もともと、このような投資は社会的責任投資(SRI(※4))と呼ばれ、教会資産の運用で武器やアルコール等、宗教的価値観などに反する企業を投資対象から除くことから始まったとされている。その後、投資判断に環境や人権などさまざまな課題を考慮する投資が始まり、サステナブル投資が拡大した。2006年4月、国連を中心に責任投資原則(PRI)が策定された。PRIは、解決すべき課題を環境(Environmental)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の3つの分野(総称してESGと呼ぶ)に整理し、ESG要因が企業価値に影響を与えるという前提の下、投資行動などにESGの課題を組み込むことを提示した。PRIの策定で機関投資家によるESG投資が拡大し、サステナブル投資全体の拡大に寄与している。

2015年9月に公的年金(厚生年金や国民年金)の積立金を管理・運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がPRIに署名した。そして、「ESGの取組みに係る基本方針」で「スチュワードシップ責任を果たす一環として、ESGへの取組みを強めることとし」、「運用受託機関が行っている投資先企業へのエンゲージメント活動の中で、これまで以上にESGを考慮した『企業価値の向上や持続的成長』のための自主的な取組みを促す」ことなどを示した。さらに、2016年7月にはESG要素を考慮した国内株式のパッシブ運用の実現可能性を探ることを目的に、「国内株式を対象とした環境・社会・ガバナンス指数の公募」を開始した。GPIFの行動が運用機関に与える影響は大きいと考えられ、日本のESG投資のさらなる拡大につながることが期待できる。日本のESG投資は新たな時代を迎えたと言えよう。

(※1)Eurosif “European SRI Study 2016”
(※2)Global Sustainable Investment Alliance “2014 Global Sustainable Investment Review”
(※3)US SIF “REPORT ON US Sustainable, Responsible and Impact Investing Trends 2016”
(※4)SRIは“Socially Responsible Investment”の略称として用いられているが、“Sustainable and Responsible Investment”や“Sustainable, Responsible and Impact”の略称としても用いられるようになってきている。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。