トランプ大統領が誕生した経済的理由以外の理由

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2016年11月30日

  • 土屋 貴裕

アメリカの選挙において、宗教的背景は候補者の特徴を理解するための一つのポイントとして挙げられる。2016年の大統領選では、経済の回復に乗り遅れた白人のブルーカラー労働者が既存政治に反発し、トランプ候補当選の原動力になったとされる。だが、経済的理由以外の価値観の違いもあるのではないだろうか。

1620年のピルグリム・ファーザーズのアメリカ上陸が、建国に向けた第一歩とされる。実際には15世紀から多くのヨーロッパ人がアメリカ大陸に渡ってきていたが、反権力の宗教的自由を求めた最初の移民をアメリカ建国の第一歩としていることは、宗教の重要性と信教の自由を物語っている。結果的に、アメリカはキリスト教中心の国だとしても、カトリックとプロテスタントという二分法では無理で、連邦議会の議員もプロテスタント中心ながら宗派は多岐にわたり、モルモン教やユダヤ教など多様である。カトリックであるヒスパニック系(中南米系)の移民が増えて、構成はさらに変化しつつあるようだ。

近年はイスラムへの反発があるが、新たな移民を制限した歴史として、1920年代に移民制限法が成立し、国別に人数を割り当てたり、中国からの移民を禁止したりした。一方、同時期か少し前の20世紀初頭には、公権力による社会・経済秩序の維持のための制度整備が行われた。FRBの設立、反トラスト法の制定、予備選などの直接民主制の整備などである。王侯貴族が支配するヨーロッパとは異なる、反権力の国を作ったという理念のもと、産業資本の勃興に伴う独占や寡占、有力者の支配への反発が背景にある。政府は権力者ではなく、社会一般に貢献する組織であるという前提である。貧富の差はあっても階級社会ではなく機会の国であり、競争社会であることが、アメリカ的なのだろう。

反権力主義に基づく競争社会では、人とのつながりが大切になり、価値観の維持が重要性を増すと考えられる。以前からの住人が多数である郊外と、新たな移民が増えた都市との軋轢が生じた。以前からの住人にすれば、新たな移民がもたらす異なる文化や価値観は受け入れられず、社会構成を変化させたくない意識が移民の制限につながったとされる。

知らないこと、新しいものを警戒するのは当然である。2012年大統領選の共和党候補であったロムニー氏はモルモン教徒である。飲酒や喫煙、カフェインを許容しないモルモン教は、傍目には厳しそうだが、実際には印象の良い人も悪い人もいる。知らないことで恐怖を感じ、排除につながってしまう恐れがある。

宗教や人種構成は地域によって異なるが、大都市周辺では様々な人種が数多くいることで、マイノリティーはそれほど目立たない。ニューヨークにはイスラム、仏教、ヒンズー教、その他の宗教の寺院も存在する。トランプ候補が支持された地方都市や郊外は、反権力の伝統と8年間の民主党政権で同性婚などリベラルな政策が進展し、新たな移民が増え、価値観が異なる社会への恐怖や警戒感、反発がより強かったのかもしれない。

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