開業半年を迎えた北海道新幹線の現状と課題

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2016年10月12日

  • 米川 誠

本年3月26日に北海道新幹線が開業して半年がたった。ここでは、開業後半年間の現状と課題について考えてみたい。

まず、利用旅客数については、JR北海道の発表によると、半年間で143万人が利用し、在来線だった前年同期実績の約1.8倍となった。また一日の平均乗車率は39%であり、当初想定していた28%を上回った。競合する航空路線がほぼ前年と同レベルであったことを考えると、まずは好調な出だしといえよう。

実際、五稜郭や函館山など函館市の主要観光地はどこも前年を大きく上回る入込客でにぎわいを見せている。北海道新幹線開業に合わせて、JRや旅行会社などが函館と青森をPRする大型観光キャンペーンも大きな追い風になったと思われる。

一方、いくつかの課題も見えてきている。まず、喫緊の課題が函館市の宿泊施設不足の問題である。新幹線開業の影響により、今夏の観光シーズンの函館の宿泊者数は宿泊施設が受け入れられる収容能力のほぼ上限に達した。この状況が続けば、観光客を受け入れきれなくなる。今後の動向を見極めながら、宿泊業への投資を加速させるとともに、人手不足気味な宿泊業従業者の育成・確保にも努める必要がある。

また賑わいを見せているのが、道南、しかも函館市内のみの観光にとどまっていることも課題だ。道東や道央は新幹線開業の影響がほとんど及んでいないことから、住民の関心は低い。今後、新幹線の開業効果を全道に広げるには函館と道内各地との交通利便性を高めるなどの工夫が必要であろう。

新幹線開業に伴い並行在来線である江差線は、第三セクタ-、道南いさりび鉄道がJR北海道から引き継いだ。現在のところ、運行経費が運賃収入を大幅に上回る状況で、JR貨物の線路使用料、JR北海道、北海道と沿線自治体の支援で何とか運行を維持している。今後、沿線人口は減少し、また老朽化する施設の更新費も増加する見通しで、経営環境は厳しさが増す。道南いさりび鉄道の安定経営と活性化は大きな課題である。

利用客が落ち込む冬季の旅客をどう増やすかも課題である。今年は開業効果で利用客は前年比で大幅増加となることが予想されるが、2年目以降も利用客を引き付けることができるか、真価が問われるであろう。

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