大阪に居を構えない高度人材

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2016年07月12日

政府の期待とは裏腹に、東京への一極集中が続いている。総務省が2016年6月末に発表した最新の「平成27年国勢調査」の人口速報集計によると、東京の人口は過去5年間(2010年→2015年)で2.7%も増加した。その他の道府県で人口が増加したのは、沖縄(同3.0%)、愛知(同1.0%)、埼玉(同0.9%)、神奈川(同0.9%)、福岡(同0.6%)、滋賀(同0.2%)、千葉(同0.1%)であり、主に都市圏で人口の流入が観察される。

都市には様々な人々が移住してくるが、ここでは大学卒以上の学歴を持つ人々を高度人材と呼ぶことにすると、そうした高度人材がより優れた就業機会や住環境を求めて都市に移り住む傾向がある。近年の職住近接の動きもそうした傾向を加速させている面がありそうだ。実際、下の図を見ると、高度人材は首都圏や各地域の大都市を抱える道府県を選んでいる様子がうかがえる。ある都道府県で1人当たり地方法人税収が大きいということは、そこでの企業活動が活発であることを意味するので、そうした都道府県に高度人材が集まりやすくなると考えられる。

その中で一つだけ異質な動きを見せているのが、私の地元の大阪だ。言うまでもなく、大阪は関西、そして西日本を代表する大都市であり、1人当たり地方法人税収も高い水準にある。しかしながら、周辺の奈良、兵庫、京都などに比べても、大阪に居を構える高度人材の割合は明らかに低くなっているのが分かる。特に興味深いのが、大阪と奈良の関係だ。奈良に居住する高度人材の割合は、東京、神奈川に次いで全国で3番目に高くなっている。その一方で、奈良の1人当たり地方法人税収は全国で最下位である。つまり、奈良の高度人材は県内で不足する雇用の場を求めて隣の大阪まで“出稼ぎ”に行っており、大阪にとっても不足する高度人材を奈良から補えるので好都合というわけだ。大阪と奈良はお互いの弱点を補い合っているのである。

通常、都市は就業機会の豊富さや利便性の高さの見返りに地価や賃料が高くなりやすいので、それを支払う能力のある高度人材が都市に集中しやすい傾向にある。それにもかかわらず、就業機会が豊富な大阪で高度人材の割合が低い背景には、住環境の悪さがあるのではないかと推察される。周辺の奈良や兵庫、京都から比較的アクセスが良いこともそうした傾向を一層強めているものと思われる。

関西の地盤沈下が言われて久しいが(※1)、最近では、2013年に開業したグランフロント大阪などの商業施設やユニバーサル・スタジオ・ジャパンの盛況などもあって、今までとは違った大阪のまちの魅力度も高まりつつある。加えて、子育て、教育、治安などの環境も居住を決める上では重要な要因であり、そうした住環境の改善によって大阪で高度人材が集まりやすくなる可能性がある。第4次産業革命が本格化すると、人工知能などを産業に実装していく高度人材の役割がますます高まると予想される。彼ら(彼女ら)が納める住民税を増やすためにも、住環境のあり方を考えることは重要な地域政策となる。東京ではまもなく都知事選が行われるが、高度人材も含めた人々が暮らしやすい住環境へ改善していくことは、日本全体でも地域の今後の発展を考える上で重要な成長戦略と言えそうだ。

大阪に居を構えない高度人材

(※1)詳しくは、溝端幹雄[2016]「なぜ地方は東京に追いつけないのか?~長期データで見る地方の実態~」『大和総研調査季報』2016年夏季号Vol.23(近刊)を参照されたい。

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溝端 幹雄
執筆者紹介

経済調査部

主任研究員 溝端 幹雄