FCバルセロナがスペインリーグを来年離脱?

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2016年03月16日

ロンドンに赴任して、バルセロナに住む親戚家族と過ごす機会が増えている。私のいとこがスペイン人と結婚していたり、妻の親戚も移住して商売していたりと何かとスペインには縁がある。

ただしこの国を深く知っている日本人は多くない。目下、ユーロ圏の中でもスペイン経済は好調そのものであり、2015年度の実質GDP成長率は前年比+3.2%と、ドイツ(同+1.7%)、英国(同+2.2%)をはるかに凌駕している。ECBのドラギ総裁も2016年1月の金融政策理事会後の会見で、ユーロ圏の中で最も構造改革に成功した国としてその実績を称賛している。フランコ独裁政権時代を知っている人は、パリやミラノなど華やかな欧州から離れた貧しい軍事政権の名残がある国ぐらいにしか思わないかもしれない。しかし、空港や道路などのインフラは日本と比較してもよっぽど近代的で、近隣のフランスやイタリアから訪れるとその違いに驚かされる。

そういえば私の小学生のころからFCバルセロナとレアルマドリードは欧州の強豪であり、ワールドカップで活躍した選手を大金で引っ張っていたのを覚えている(レアルマドリードには大ファンであったメキシコ代表ウーゴ・サンチェスもいた)。現在のFCバルセロナに至ってはアルゼンチン代表のメッシもおり、あれだけの資金力があるクラブが存在するほど豊かな国であることも納得できる。それなのに、彼らはいつ働いているのだろうと思うぐらい生活にゆとりがある。労働組合が強く、午後1時半から5時まではシエスタ(中休み)を取っても良いため、デパートやレストランは昼間ほとんどシャッターが閉まっている。また銀行は午後2時で閉店。支店の窓口だけだと思っていたが、裏で融資業務も行わず、本当に全て閉まってしまうため商売をする親戚はビックリしたそうだ。

この国、ひょっとして数値以上に生産性が高い国なのかと思い調べてみると、欧州で問題となっている地政学的リスクが少ないことが分かる。まず第一にこの国は難民問題が深刻ではない。確かに海を隔てて隣にあるアフリカ大陸から、難民がボートで地中海を渡ってくるが(最短はジブラルタル海峡の15キロ)、2015年に流入した難民数はギリシャの85万人と比較してたった3.5万人に過ぎない。その人間もほとんどがフランス(もしくは英国)を目指してしまうため、昨年の難民受入クォータは使いきれなかったとのことだ。また、地理的なメリットを活かし、旧植民地のあるアフリカから燃料の多くを輸入しているため、ロシアと西側のエネルギー対立の影響も受けない。確かに欧州債務危機以降、失業率は高止まりを見せているが、商売している親戚に聞くとバルセロナやマドリードの都市部では人手不足で求人に苦労しているそうだ。

その様な、好調のスペイン経済で、足許の不確実性はバルセロナを州都に持つカタルーニャ地方の独立であろう。2016年1月10日、カタルーニャ州議会第1会派で独立推進派のジェンツ・パル・シィは、新知事にカルレス・プチデモン氏を指名、議会は賛成多数で承認した。これにより、新知事は政権公約である2017年春までの、カタルーニャ州の独立に向けて動き始めることとなった。無論、独立に向けて通貨や国防など解決すべき課題は山積みであり、僅か1年半での独立は前途多難である。しかし、新知事は時間的な制約は問題ないと一蹴しており、独立に向けて中央銀行、租税当局、自衛軍の設立の準備を急速に進めている。ただし、さすがに国は憲法違反として独立を阻止する構えだ。

ちなみにカタルーニャが独立したら、FCバルセロナはスペインサッカー連盟からは除名され、リーガエスパニョーラ(スペインリーグ)から脱退するといわれている。国の枠を超えてASモナコも所属する隣のフランスリーグが救ってくれる可能性もあるが、最悪、リーガエスパニョーラ2部に所属するチームと合わせて4〜5チームで新リーグができるかと想像したりする。日本から遠く直行便も無いスペインは、色々な意味でFCバルセロナを失ったらさらに遠い存在になりそうだ。

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菅野 泰夫
執筆者紹介

金融調査部

主席研究員 菅野 泰夫