北風と太陽

2016年3月3日

  • 調査本部 上席参事 木村 浩一

日本銀行が2月16日からマイナス金利政策をスタートさせたが、イソップ寓話の「北風と太陽」をつい思い出してしまう。

日本の家計の預貯金残高はバブル崩壊後も一貫して増え続け、2015年9月末には823兆円(流動性預金、定期性預金)に達し、2001年度末比で約100兆円増加している(日本銀行「資金循環統計」)。預入期間1年の定期預金の金利は2001年に0.1%を割り、2001年以降、0.0%台のほぼゼロ金利が10年以上も続いているにもかかわらずである。雇用者報酬は1997年度以降減少を続けており、家計はたとえゼロ金利でも生活防衛のため預金を積み増していったのだろう。

一方で、消費税引上げや知らぬ間に上がっている社会保障費の増加により、国民負担率(対国民所得比)は、最近10年間で5%(租税負担約2%、社会保障負担約3%)も上がっている。そして、長期にわたるゼロ金利により預貯金が果実を生まない一方、政府と企業部門は低金利による恩恵を受け、実質上、家計から政府、企業部門へ膨大な所得移転が行われてきた。2014年度の家計最終消費支出は286兆円であったが(内閣府「国民経済計算」)、仮に預貯金から3%の金利収入があれば、1割弱消費を増やせる原資となっていた。

所得減と国民負担の増加によって手取り収入が減った家計は、銀行に預けても金利がつかないからといって消費や投資に向かうということはなく、生活防衛のためますます預金を積み増すだろう。ゼロ金利は北風であり、北風を吹かせても所得の増加という太陽の光があたらない限り、家計という旅人が懐を緩めることはないだろう。

また、金融機関経営及び金融システムの安定は、経済の健全な発展にとって不可欠であるというのがリーマン・ショックの教訓だが、ゼロ金利は金融機関の収益を悪化させ、金融機関がリスクをとって業務拡大をすることを妨げる。ゼロ金利政策は、家計や金融機関の経済活動を萎縮させるのではないだろうか。

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