質の改善を測定する

2016年3月2日

企業ガバナンス改善への取り組みは、アベノミクスの「改革リストのトップアジェンダは、コーポレートガバナンスの改革である。」(※1)と明言されている通り、成長戦略の重点課題となっている。既にスチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードが設けられており、制度面では、大きな進展が見られる。では、こうした一連の政策の評価を行うにあたり、日本企業のガバナンスの質が改善したというためには、どのような測定方法が考えられるだろうか。

まずは、企業のガバナンスに専門的な識見を持つ人や組織が、質の変化を評価するという方法が考えられる。しかし、これでは、専門的な人や組織が真にそのような識見を有するかということ自体が、疑問になるだろう。既にガバナンス格付けを行う評価業者がいくつかあるが、評価業者の信頼性や適格性が確保されているわけではない。

何かしらの評価基準(クオリティ・インディケータ)を設けて測定するという方法もあり得るが、この場合には、基準そのものが適正なものであるのか、問題となる。量的な変化をもって質が変わったとする評価基準は作りやすいが、例えば社外取締役が増えることが質の向上なのか、情報開示書類が厚くなればガバナンスは改善しているのか、疑問であろう。また、ガバナンスの質が改善すればROEが上昇すると期待したとしても、逆にROEの上昇が、ガバナンスの質の改善を意味しているわけではない。質を評価するための基準の説得力が問われる。

他には、質を直接観察するのではなく、ガバナンス情報を使う人々の反応をもとに質の改善を推測する方法が考えられる。企業ガバナンスの制度が改正された前後で、投資家の行動がどのように変わったかを測定することで、質の変化を推し量ろうとする試みだ。例えば取締役会の実効性評価とその開示を行ったことによって、その企業の株価のバリュエーションに変化があれば、それは、ガバナンスの質の変化を読み込んだ投資家の反応であるのかもしれない。とはいえ、この手法も、株価に影響を及ぼす他の要因がとても多いので、正確な測定は難しくなるだろう。

企業経営の周辺に限っても、質の改善の測定が難しそうなものは、他にも少なからずある。「監査の質」、「利益の質」、「雇用の質」など、様々な分野で質の改善への取り組みが求められている。こうした質の改善のための努力が実りを結んだか、適切な評価を行うことができれば、さらに質を上げていこうという意欲が高まるのではないだろうか。

スチュワードシップ・コードとコーポレートガバナンス・コードに対応するために、機関投資家と上場企業は苦労を重ねている。努力と苦労が報われ、ガバナンスの質は高まったのか、検証するための方法を検討する必要があろう。

(※1)首相官邸「金融を中心とするビジネス関係者との対話 安倍総理スピーチ」(平成27年9月29日)

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