個人主義か連携か

2016年2月19日

近頃、米国で大きな議論を巻き起こしているのが、チップ廃止問題である。2013年にニューヨークにあるスシ・ヤスダが、早々とチップ廃止を打ち出したことをきっかけに、徐々に動きが広まった。昨年秋、多くの星付きレストランを経営するユニオン・スクエア・ホスピタリティー・グループの最高経営責任者(CEO)であるダニー・マイヤー氏が、「ユニオン・スクエア・カフェ」や「グラマシー・タバーン」、ニューヨーク近代美術館に併設されている、「ザ・モダン」など配下のレストランのチップ制を廃止する一方、料理の価格を値上げするという方針を打ち出し、大きな波紋を広げている。

米国では、チップはその顧客を担当するフロア係に帰属し、一般的には利用代金の15~20%程度といわれている。フロア係は自分の給料に加え、チップが収入源となるが、もともとの給料が低く抑えられているため、チップで稼ぐほかはない。一方で、厨房で働くシェフなどの従業員(キッチン係)にはそうした仕組みはなく、給料のみが支払われる。フロア係とキッチン係との間でモチベーションに差が出ることは容易に想像がつく。

「チップは米国の文化だ」という主張や、「いやいやレストラン業界の新時代の幕開けだ」といった議論はさておき、実際にチップ制が廃止となったレストランで働くフロア係は、「他のフロア係やキッチン係とコミュニケーションがよく取れるようになり、顧客へのサービスやホスピタリティーの提供に集中することができた」とテレビの取材でコメントしていた。個人主義の象徴でもあるチップ制よりも、チームワークの強化により顧客の満足を追及できることに喜んでいる様子であった。

今度は少し前の中国の話である。日系企業の工場などが従業員のストライキで操業に大きな影響が出たことは記憶に新しい。知人の中国人の弁護士によると、日系企業は従業員の給料を同額にするからこうした問題を引き起こしやすいのではないかと当時指摘していた。つまり、同じ処遇であるから、手を組んで、経営者に対し権利を主張することになる。一方で、ほんの少しでも給料に差があれば、給料を多くもらっている従業員にとって手を組むインセンティブは働かない。自然とストライキは起こらなくなる、とのことであった。連携を絶つための個人主義というアプローチでもある。

この2つの事例はある意味で極端かも知れないが、経営にとって、個人主義と連携ではどちらが良いのか。ここである仮説が成り立つ。経営者からみて、従業員の方々の創意工夫が必要なときは連携が必要であり、一方で、経営者が従業員に多くを期待していない、つまりルーティンな作業のみを期待している場合には個人主義の方がより扱いやすいのではないか、ということである。

しかし、実はこの個人主義のスペースは年々狭まっているように感じている。個人主義のもう一つの象徴は成果報酬である。成果を上げた社員にはそれに報いるというものであるが、これもまた行き過ぎると、個人商店の集まりになりかねない。また、シニアから若手への技能継承が進み難くなったことも、指摘されている。

ただし、連携はより難しい。経営者が「●●部署と△△部署で連携するように」と言ったところで、本当にそれが機能するかどうかは、甚だ疑わしい。しかし、先ほどのフロア係のコメントを思い出す。顧客に対する最高のホスピタリティーの提供という目的がはっきりしているうえ、その目的の達成に喜びを感じているとともに、それには連携が必然であることも肌で感じている。

経営者が“目的”を示し、またその“目的”に対して従業員が共感し、有機的かつ自発的に動くような状態、これこそが真の連携の姿である。金銭ではない“何か”が人を動かすのである。

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