オランダの年金制度にみる「連帯」という意識

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2016年01月21日

オランダは、世界でも有数の年金制度の充実した国として知られている。OECD(経済協力開発機構)がまとめた世界の年金基金における統計によれば、オランダは世界各国と比較しても年金資産が潤沢に積み上がっている国であることが示されている(※1)。また、海外のコンサルティング会社(※2)や生保会社(※3)で発表しているレポートにおいても、優れた評価を得ている。なぜ、オランダはこのように高い評価となっているのだろうか。

オランダの年金制度は3階建て(全国民に共通した基礎年金部分:1階、被用者を対象とした職域年金:2階、個人年金:3階)とされている。1・2階部分からの給付は、国民の平均所得の約8割の水準となっている。2階部分(職域年金)においては、被用者の約9割が加入しており、オランダ国民の多くが手厚い給付を受けているといえる。

一方で、オランダでも人口高齢化の波は確実に押し寄せており、支給開始年齢引き上げ等の対応に迫られている。さらに、職域年金については、日本と同様に確定給付型の制度を主流としているため、国際会計基準の導入や年金資産の積立水準の厳格化などによって、年金制度を維持することが困難な企業が増えてきた。負担を軽減する狙いから集団型DC(Collective Defined Contribution)と呼ばれる新しい制度も導入されたが、幅広い普及には至っていないようだ。オランダの年金制度も、日本と同様に様々な課題に直面している。

それでもなお、高い評価となるのには、所得代替率や潤沢な資産などの数値的な裏付けがあるだろう。同時に、オランダの年金制度で重要視されている「連帯」という考え方も影響しているのではないかと思う。オランダの研究機関では、国民(労働者)が年金制度の「連帯」性についてどのように考えているのか、を明らかにするための調査を行った(※4)。結果、例えば人口高齢化はオランダ国民の間で「連帯」の意識を低下させる可能性があると指摘している。今の現役世代が今の高齢世代より給付水準が下がることに不公平さを感じ、制度に不満を持つかもしれないからだ。この調査は、オランダの社会・雇用省からの要請によるもので、今後も定期的に行っていくようだ。国民の年金制度に対する「連帯」の意識を年金制度改革へ反映させ、国民の支持が高く透明性の高い制度の構築へ繋げることが狙いであろう。こうした取り組みも評価対象の一つとなっているのではないか。

国内に目を転じると、日本は世界に先駆けて高齢化が進行しており、世代間の不公平感の高まりから日本国民の間の「連帯」の意識は大きく低下しているだろう。しかし、世代間扶養の賦課方式で運営される日本の年金制度においては、「連帯」という考え方がとても重要となる。「連帯」の意識の高まりは国民年金未納問題の解決への進展に繋がり、また、より良い制度改革への原動力ともなろう。筆者は、こうした思いを常に胸に置き、情報発信に努めていきたいと思う。

(※1)“Pension Markets in Focus 2015”OECD, 9ページ
(※2)米マーサー社「マーサー・メルボルン・グローバル年金指数ランキング
(※3)“Retirement Income Adequacy Indicator” Allianz, International Pension Papers ,1/2015. 9ページ
(※4)“Pensions in the Netherlands: solidarity and choice”SCP, 16 November 2015

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執筆者紹介

政策調査部

研究員 佐川 あぐり