コーポレートガバナンス改革とROE10%の壁

2016年1月14日

  • 経営コンサルティング本部 主席コンサルタント 太田 達之助

2015年はコーポレートガバナンス改革元年だといわれている。機関投資家に対して、企業との対話や株主総会での議決権行使などを通じて、中長期的な企業価値の向上を求める「スチュワードシップ・コード」が2014年2月に策定されたのに続き、2015年の6月からは東証上場企業に対して、「コーポレートガバナンス・コード」が適用され、健全な企業家精神の発揮や主体的な情報発信など、攻めのガバナンスが求められるようになった。

これら2つのコードは、アベノミクス成長戦略の柱である「企業の稼ぐ力」を引き上げるために、企業経営者のマインドと機関投資家の行動基準を変革するものであり、着実な成果を上げつつある。機関投資家が重視する指標であるROE(自己資本利益率)を意識した経営も少しずつではあるが浸透してきている。

日本企業の平均ROEは、過去30年以上10%を下回って推移している。主要企業が軒並み過去最高益を記録した2007年度に10%近くまで上昇したが、リーマンショックによりその後大きく反落。2015年度にも9%前後まで上昇すると予想されているが、10%超えは難しそうだ。ROEの分子である純利益が増加しても、分母の自己資本が利益の内部留保に加え、円安による評価・換算差額等の増加により分子以上に増加する企業が多いからである。

日本企業の平均ROEを高めるためには、ボリュームゾーンであるROE5%程度の低収益企業の資本生産性を高めることと、高収益・キャッシュリッチで過剰資本企業の資金・資本の有効活用を促すことが必要である。

ガバナンス改革で「稼ぐ力」を引き上げることは王道ではあるが、相当の時間が必要だ。より即効性があるのは、高いROEを実現できるポテンシャルがありながら、保守的な資本政策を行っている企業の意識改革である。

CFO(最高財務責任者)が最適資本構成を意識した財務戦略を実行する米国においては、株主への利益配分が主要企業の平均で80~90%にのぼる。配当性向は日米企業でさほど大きな差はないが、自社株買いのレベルが大きく異なるのである。日本企業の経営者は、大規模な自社株買いに対して、成長戦略を損なうものだと否定的に考えることが多い。ところが、売上・利益の成長力において、自社株買いに積極的な米国企業が日本企業を上回っているのは厳然たる事実である。

有利子負債の返済には前向きな日本企業が、自己資本の「返済」に後ろ向きなのは、伝統的に、メインバンクによるガバナンスが効いていたのに対し、株式持ち合い構造等によって株主によるガバナンスが効いていなかったからである。

日本では、ガバナンスを効かせようとする株主を「モノ言う株主」として、特殊扱いすることが多い。しかし、リスクマネーの出し手である株主が「モノを言う」のは当たり前のことである。

2つのコードの狙うところは、まさに株主によるガバナンスを効かせることによって、企業の中長期的な収益力と資本生産性を高めましょうということである。コーポレートガバナンス改革により、日本企業のROE10%超えが定着することを期待したい。

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