新春を迎えて

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2016年01月01日

  • 名誉理事 武藤 敏郎

2015年の我が国の経済は、消費税率引き上げの影響から次第に立ち直り、第2四半期に一旦踊り場局面を迎えたものの第3四半期には予想を上回る回復を見せた。2015年通年でみれば、0.6%程度の成長を達成すると見込まれる。企業収益も総じて好調であった。失業率は3%近くまで下がり、労働市場は逼迫した状況にあると言える。株価も春に一時下落したが、年末には2万円近くまで上昇した。総じてみれば、2015年は近年になく良い年であったと言えるだろう。

2016年の日本経済は、緩やかな回復基調をたどり、暦年で1%程度の実質成長を達成できるであろう。ただし原油価格がバーレル当たり40ドル台で推移すれば、コアCPI上昇率は、日本銀行が期待する2%を達成することは困難で、1%ないしそれを少し上回る程度にとどまる可能性が高い。

日本経済を取り巻くリスクの第一は、中国経済の下振れである。中国の2015年の実質成長率は、7%を下回るだろう。実際の成長率は、3%を下回っているのではないかという見方もある。政府は、預金準備率の引き下げなどの金融緩和と財政刺激策を講じており、直ちに中国の景気悪化が深刻になる可能性は低いが、下振れリスクには留意が必要であろう。

第二は、アメリカのFRBの金融緩和からの出口政策が、新興国経済に悪影響を与えるリスクである。FRBは利上げをゆっくりしたペースで行うと表明しており、このリスクが大きいとは思わないが、注意が必要であろう。

第三は、ユーロ経済の悪化のリスクである。ユーロ経済は当面底割れする心配はないが、ギリシャ問題の背景にあるユーロシステムの根本的な問題は解決されていない。

第四は、地政学的リスクである。特にパリにおけるイスラム過激派の無差別テロ以来、世界的にテロの脅威が広がっている。テロによる世界的な株安などが起こるリスクは無視できない。

日本国内のリスクを強いて挙げれば、財政規律の喪失が国債価格の暴落を引き起こすリスクであろう。今年の夏には、ブラジルでリオ・オリンピック・パラリンピック競技大会が開催される。これが終わると東京2020大会に世界が注目することになる。我が国は東京2020大会をスプリングボードとして、日本の未来を切り拓かなければならない。今年はそのために決意を新たにして、長期的視野に立って諸課題に取り組む年でありたい。

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