9月末時点での"新"コーポレートガバナンス報告書

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2015年11月27日

  • 引頭 麻実

東京証券取引所はこの6月、コーポレートガバナンス・コードに基づく開示ガイドラインをスタートさせた。3月期決算企業の場合、今年12月末までにはこれに沿った開示が求められている。

東証1部上場企業のうち、9月末までに“新”コーポレートガバナンス報告書を開示した企業は104社。東証1部上場企業約1,900社中、5%余りに留まっている。10-12月期での開示が大宗を占めると見られる。

コーポレートガバナンス・コードはソフト・ローである。必ずしも遵守の強制力を持たないものでるが、遵守しないのであれば、その理由や考え方について説明しなければならないという、“Comply or Explain”(遵守せよ。さもなければ説明せよ。)という手法が採用されている。

104社をみると、全面Comply としている企業は66社と約2/3を占め、38社が一部Explainを選択している。コーポレートガバナンス・コードは73の原則から構成されているが、東証が開示を求めているのはこのうち11の原則のみである。この11の原則のうち、Explainが多く選択されたのは、【補充原則4-11③】取締役会全体の実効性の評価・分析(22社)、【原則4-8】独立社外取締役の有効な活用(14社)、【原則1-4】いわゆる政策保有株式(4社)、【補充原則4-14②】取締役・監査役のトレーニングの方針(3社)などであった。当初は政策保有株式についての原則などが注目されていたが、実際には取締役会の評価や独立社外取締役についての項目にExplainを選択する企業が多かった。

【補充原則4-11③】であるが、Explainを選択した22社の内容を見ると、時間軸等には差はあるものの、全ての企業が今後検討したいという方向性を示すものであった。これをみると、コードには賛同するが、もう少し時間が必要だ、というように読み取れる。

また、【原則4-8】では14社がExplainを選択した。このうち10社は現在の独立社外取締役は1名だが、2016年度もしくは今後、2名以上を選任したいとしていた。また3社は現在の独立社外取締役は1名であるが十分機能している、今後必要に応じて増員を検討していきたい、というものであった。最後の1社は非常にユニークである。当該企業は、6名の取締役のうちすでに3名を独立社外取締役とするなど、【原則4-8】に則っている。しかし、【原則4-8】の後段には、「自主的な判断により、少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える上場会社は、上記にかかわらず、そのための取組み方針を開示すべきである。」とされている。当該企業はこの後段についてExplainを選択した。現在、監査役会設置会社であるが、独立取締役の人数比等については、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社のいずれを採用し、機関設計するのかといったことにもつながることから、慎重に議論を進めたいという主旨の“説明”を記載している。

これこそがまさにガバナンスコードが意図する開示ではないか。企業のガバナンスのステージ、状況に応じて開示内容を検討し、変えていくことこそ、今回のコーポレートガバナンス・コードの要諦である。実態に即していない開示や、背伸びをした開示は意味を持たない。自社が必要と考えるガバナンスを作り上げること、また一旦作り上げたとしても、外部環境や自社の状況の変化に応じて、適宜ブラッシュアップしていくことが求められているのである。

今回の“新”コーポレートガバナンス報告書を作業と捉えるのか、自社のガバナンスを盤石なものにしていくための気づきのツールであると捉えるのか、大きな分かれ目である。自社の持続的成長をより確かなものにするために、盤石かつアジャイルなコーポレートガバナンスが不可欠であることを、どの程度の企業が気づけるのだろうか。

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