日本人が激減したサイパンで、2020年以降の爆買い後/五輪後を考える

RSS

2015年11月18日

前回のコラム(「山の日」創設に思うこと~カレンダー休日数以上に休めない日本人)で書いた課題への取り組みを自ら実践しようと、先日休暇を取得してサイパンを訪れた。これまでのコラムでグアム(夏休み!グアム最前線)、沖縄(コーヒーベルトの北端にて)(日本が誇るビーチリゾート、沖縄)を取り上げたが、サイパンもまた日本人には馴染みのあるビーチリゾートだ。非常に透明感のある美しい海と燦々と降り注ぐ「夏」の日差しを満喫したが、ふと見渡すと、本年8月に同地域を直撃した台風13号(英名:Soudelor)の影響か、主要な通りや観光地を離れると多数の倒木や荒れた家屋がそこかしこにあるのが目に付いた。

サイパンの観光業は、1980年代後半から1990年代半ばにかけてリゾートホテルなどへの外国(主に日本)からの直接投資によって飛躍的に成長し、サイパン島、テニアン島、ロタ島を含む北マリアナ諸島(CNMI)の観光客数は、1997年にピークとなる年間73万人を記録した(※1)。日本からの観光客は、同年に年間45万人と半数以上を占めたが、翌年以降は減少に転じ、2014年には年間11万人とピークから76%減少している。

日本人観光客の減少に伴い、CNMIの観光客数は2011年に年間約34万人と、ピークから53%減少したため、人口約5万人で観光業に強く依存する同地域の経済は大きな影響を受けた(※2)。さらに、CNMI政府予算はピークの1997年は2億4700万ドルであったが、2012年には1億200万ドルにまで減少した。マリアナ政府観光局(MVA)などによる施策もあり、CNMIの観光客数は2011年で底を打ち、2014年には年間47万人に回復したが、日本人観光客は減少を続けており、増加したのは韓国と中国だ。2014年には韓国が年間16万人、中国が年間15万人(いずれも予測値)と、ともに日本を上回った。

一方で、日本人海外旅行者数は年によって変動はあるものの、この20年ほどはおおよそ年間1,700万人前後で推移している(※3)。つまり、日本人が海外に出掛けなくなっているのではなく、CNMIを選ばなくなっていると言える。このことに危機感を抱いたMVAでは、依然として重要なマーケットである日本との関係を「再構築」し、日本人観光客を再び呼び込むことの必要性を訴えている。鍵となるのが、日本とCNMIを結ぶ定期航空便の復活であり、MVAでは特に成長著しいLCC(Low Cost Career、低価格航空会社)の就航に期待を寄せる。

このようなサイパンの変遷は、日本においても教訓となろう。観光業において一国に比重が偏っていると、自国の観光政策もさることながら、相手国の経済状況に大きく依存する。2014年の訪日外客数は1,341万人であり、トップ3は台湾(283万人)、韓国(276万人)、中国(241万人)であったが、中国の伸び率が前年同月比で83%と非常に高く、2015年1~7月の暫定値ベースで既に276万人に達している(※4)。一方で、中国経済についてはGDP成長率が7%を割るなど不安定な様相も見せている。日本のCNMI観光客数のピークは、バブル経済が崩壊しておよそ5年後の1997年であった。日本では東京オリンピック・パラリンピックが開催されることもあり、今から5年後の2020年が一つの節目となりそうだ。「爆買い」やオリンピック後の冷却を見据え、アジアに比べて訪日外客数が相対的に少ない欧米への施策を強化するなど、これからピークを迎えるからこそできる施策を打つべきであろう。

(※1)Marianas Visitors Authority, “Northern Mariana Islands Tourism Master Plan 2012-2016”, March 2012
(※2)Marianas Visitors Authority, “General Membership Meeting: Managing Director’s Update”, 3 July 2014
(※3)国土交通省「観光白書」各年版
(※4)日本政府観光局「国籍/月別 訪日外客数(2003年~2015年)」

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。