日本企業の気候変動問題への対応に関する評価

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2015年11月12日

  • 伊藤 正晴

2015年11月に、CDPから日本企業の気候変動問題への対応を評価した「CDP 気候変動 レポート 2015: 日本版」が公表された。CDPは、機関投資家によるイニシアチブで、2003年より世界各国の企業の気候変動問題への取り組みや、温室効果ガスの排出量の測定や管理などについて広範な調査を行い、その結果を公表している。また、企業だけでなく都市なども調査対象に加えるとともに、水や森林など自然資本の領域に活動範囲を広げている。

気候変動問題に関する企業の評価は、世界の大手企業500社を対象としたもの(グローバル500)や、日本、英国、米国などの国別に調査企業を選定したものなど、さまざまなユニバースでまとめられている。また、評価についてはCDPの質問書に対する各企業の回答内容に基づいて、回答の完全性と質を評価するディスクロージャースコアと、気候変動への対応の度合いを評価したパフォーマンススコアの2つの評価が実施されている。

まず、日本企業のディスクロージャースコア(100点満点)の平均点は、2013年が73点、2014年が78点、そして2015年は89点と伸びている。また、グローバル500の2015年の平均点は91点で日本を若干上回るが、英国は81点、米国は85点であり、CDPの質問書への回答を評価した結果ではあるが、世界的に見て日本企業の情報開示の水準は高いようである。

次に、企業のパフォーマンススコアについては、最上位をAとして、A、A-、B、C、D、E の6つのバンドで公表されているが、日本では2015年にAまたはA-を獲得した企業は評価対象企業の6%に相当する16社であった。グローバル500では19%、英国は3%、米国は12%であり、英国よりは比率は高いが、グローバルや米国に比べるとかなり低い水準となっている。東日本大震災の影響で化石燃料による発電が増えていることなどで温室効果ガスの排出削減が進んでいないことや、再生可能エネルギーの導入がグローバル平均は36%であるのに対し日本は30%にとどまっていることなどが影響しているようである。

日本政府は、2015年11月30日~12月11日に開催が予定されているCOP21に向けた約束草案(※1)で、温室効果ガスの排出量を2030年度に2013年度比で26.0%削減するという目標を示した。また、人間、地球及び繁栄のための行動計画として、2015年9月に国連総会で採択されたアジェンダ(※2)では、目標13で「気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる」としている。気候変動問題への対応を進めることは、世界全体の共通課題となっており、日本も官民挙げて取り組みを強化していくことが求められる。企業にとって気候変動問題はさまざまなリスク要因となろうが、省エネ等によるコスト削減、製品販売、技術やソリューションの提供など成長への機会ともなろう。企業がさらに気候変動問題への取り組み等を進展させるとともに質、量ともに十分な情報を開示し、その情報を適切に評価する社会システムを構築することで、日本の持続可能性を高めていくことが期待される。

(※1)首相官邸のウェブサイト「地球温暖化対策推進本部」に掲載されている「日本の約束草案」を参照。
(※2)外務省のウェブサイト「『持続可能な開発のための2030アジェンダ』を採択する国連サミット」に掲載されている「持続可能な開発のための2030アジェンダ」(仮訳)を参照。

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