難民急増問題に揺れるドイツ

2015年11月5日

ドイツの連立政権が難民問題を巡って空中分解の危機にある、というセンセーショナルな見出しがドイツのメディアに登場している。シリアなどから欧州を目指す難民が急増しているが、その多くが目的地としているのがドイツである。ドイツ内務省は8月下旬に2015年のドイツでの難民申請者数の予想を45万人から80万人に引き上げた。2014年の20万人の実に4倍だが、最近ではこれが100万人を超えるのではないかと懸念されている。

ドイツは第2次大戦後、難民受け入れに寛容な政策をとっており、また、ここ10年余りの金融・財政危機によるダメージが相対的に小さく、直近の失業率はドイツ統一後で最低となっている。難民認定されれば、さまざまな支援を受けることができ、就学や就業のチャンスも大きいということで、以前から人気の高い亡命先である。ただし、連立政権の一角を担うCSU(キリスト教社会同盟)は、9月以降の難民流入に一段と拍車がかかった原因がメルケル首相の発言にあるとして、このところ急速に批判を強めている。

その発言とは、シリアからの難民は他のEU加盟国を経由してドイツに来た場合でも、ドイツで難民申請を受け付けるというものである。本来、EUの難民政策は「EUでの難民申請は最初に入国したEU加盟国でのみ受け付ける」ことが原則である。ところが、当時、シリア難民が急増し、海路もしくは陸路でEUの玄関口となるギリシャやハンガリーでの難民申請の受け付けが機能不全に陥っていた。このため、メルケル首相は事態打開のために例外措置を容認したのだが、それにより、そもそもドイツでの難民申請を望んでいた人々がドイツに殺到する結果を招いてしまった。

CSUはバイエルン州のみを基盤とする政党で、メルケル首相が党首を務めるCDU(キリスト教民主同盟)と連邦レベルでは共通会派を形成している。もともと保守的な傾向が強いが、バイエルン州がバルカン半島経由でドイツに来る難民の受け入れの最前線に立たされたことで、メルケル首相の難民政策批判の急先鋒となっている。CSUからは難民流入阻止策が講じられなければ、連立政権からの離脱も辞さないという過激な発言も飛び出している。

CSUの強硬姿勢に対して、「ポピュリズム」、「人種差別的な考えを助長する」との批判が当然ながらある一方、ここ数カ月の難民急増に対して何らかの制限措置を講ずる必要があるとの見方はCDU内にも存在する。既にメルケル政権も、難民認定基準を厳しくし、旧ユーゴスラビア諸国など「安全な出身国」と判断した地域からの難民受け入れを制限する動きに出ている。また、他のEU加盟国と共に、EU国境の監視体制の強化、ギリシャやイタリアにおけるEUの難民受け入れセンター設立、シリアからの難民を大量に受け入れているトルコなどへの財政支援でも合意している。とはいえ、難民に対して完全に国境を閉ざすことはできない。ドイツ政府としてなにが現実的な対応策であるのか、その話し合いがSPD(社会民主党)も交えて11月初めから始まったところである。意見の集約には時間がかかりそうであるが、その行方が注目される。

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