気候変動交渉はここからが正念場

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2015年10月22日

  • 大澤 秀一

2020年以降の国際気候変動対策の枠組みを決めるCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議、於:フランス・パリ)の開催が40日後に迫っている。196の締約国が「パリ合意」に達すれば、COP3で採択された「京都議定書」(2008~2020年までの気候変動条約)以来の壮挙となる。

パリ合意に必要な準備としては、1)すべての国が受け入れ可能かつ公平な合意文書案を事務レベルで事前合意しておくことと、2)できるだけ多くの主要排出国が削減に取り組むことを事前に誓約して、世界全体の削減につながる実効性を担保しておくこととされる。

1)については、これまでの4年間の国際交渉を通して作成した20ページの合意文書案が、10月5日に事務局から公表された(※1)。削減義務が一部の先進国に偏っている京都議定書の不備を踏まえ、削減目標は各国が自発的に誓約し、目標達成に向けた取組み状況を5年毎に国際的に検証する仕組みを中心にした各種対策がまとめられている。

目標達成を法的義務とするのか、あるいは努力義務にとどめるのかは決まっていないが、すべての国の賛同を得るために後者に落ち着くことが予想されている。また、先進国から途上国に対する気候変動対策の財政支援については、これまでの1,000億ドル/年間から引き上げることが盛り込まれているものの、具体的な拠出スキーム等は未だ決まっていない。

ちょうど今週(10月19~23日)、COP21前の最後の準備会議(ドイツ・ボン)が開かれており、上記課題等を中心に事務レベルでの事前合意に向けた交渉が行われているところである。

2)については、これまで148の国が削減目標を自発的に誓約した「約束草案」の事前提出を済ませている。提出各国の年間排出量の合計は世界の87%に達しており(※2)、京都議定書の削減義務国の排出量の合計が35%(※3)(採択時)だったことと比べると実効性は確保されていると判断できるだろう。これまで削減義務を持たなかった主要排出国の中国(排出量世界1位)と米国(同2位)、インド(同4位)が約束草案を提出していることが効いている。日本(同6位)も提出済みで、再生可能エネルギーの導入や省エネの促進、国際市場メカニズム(二国間や国際市場で削減・吸収量を取引する仕組み)の活用等によって排出量を2030年までに26%(2013年比)削減することを誓約している。

1)と2)に絡む日本の懸念材料の一つは、京都議定書第一約束期間(2008~12年度)の削減量の7割にも及んだ国際市場メカニズムの確立が見通せないことであろう。欧米諸国を中心におよそ3割の約束草案は、目標達成に国際市場メカニズムの活用に触れていない。

真水の削減(国内のみの削減)以外は別の場で議論することのようだが、日本をはじめとする先進国の先端的な技術を、削減ポテンシャルが大きい途上国で活用できれば、途上国の持続可能な発展と併せて世界全体の削減につながることに疑う余地はない。途上国の削減に対する技術的貢献を、真水の削減に劣後させる理由は見当たらないだろう。

COP21では、議長国のフランスの舵取りで初日に首脳級会合の開催が予定されている。首脳間でパリ合意に向けた政治的意向を確認し、あとに続く交渉官会合や閣僚級会合の合意形成に影響を与える作戦とみられる。日本も主要排出国として首脳級会合に参加して国際協力の在り方や意義等で主導力を発揮し、世界全体の削減に貢献していくことが期待される。

(※1)国連気候変動枠組条約ウェブサイト “ AD HOC WORKING GROUP ON THE DURBAN PLATFORM FOR ENHANCED ACTION ADP.2015.8.InformalNote”、2015年10月5日。
(※2)フランス政府ウェブサイト “ 148 countries have committed to reducing their greenhouse gas emissions”、2015年10月9日。
(※3)京都議定書採択時の二酸化炭素排出量ベースで、批准していない米国は除く。

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