高齢者はそんなに地方に住みたいのか

2015年10月7日

政府の日本版CCRC構想有識者会議が2015年8月にまとめた「生涯活躍のまち」構想(中間報告)では、主に65歳以上の元気な高齢者をイメージしながら、高齢者の希望の実現(※1)を構想の意義の一つに挙げている。

報告で言及されている高齢者の希望は、東京都在住者を対象に14年8月にインターネット経由で実施された調査結果(※2)をベースにしており、同調査は、民間の日本創成会議が15年6月に問題提起した「東京圏高齢化危機回避戦略」のなかでも引用された。

調査回答者の約4割が東京都から移住する予定又は移住を検討したいと思っているとして、“地方”の定義がやや曖昧だが、潜在的なニーズを含めてかなり多くが地方への移住を考えているとされた。50代男性の50.8%が予定・検討したいと答える一方、60代男性になると36.7%に低下する。世代間の考え方の違いはあろうが、60代が移住を考えるきっかけをみると、定年退職や介護、子や孫との同居・近居といった具体例が列挙されている。より現実味が増すと、実際の難しさ・越えなければならないハードルの高さを目前にして、それまでの強い意欲がトーンダウンしてしまうのだろう。

また、女性の移住希望者の割合は50代で34.2%、60代で28.3%となっており、男女差が生じている点も実現のネックではないだろうか。移住を希望している人(4割)の回答をみても、3割近くは漠然と検討したいと答えているにすぎず、残りの1割程度が現実的かもしれない。実際、最も希望の割合が高かった50代男性では計16.6%が具体的な期限を想定しているのに対して、50代女性は6.6%にとどまる。仮に同年代の夫婦の場合、男性が移住を希望しても女性が希望しない状況では、奥さんを説得できない限り、移住が実現する可能性は低いだろう。

さらに、調査では、移住のパターンとして、故郷に戻るUターンの他に、Iターン(都会の人が地方へ)、Jターン(故郷とは異なる地域へ)、2地域居住それぞれについて尋ねているが、いずれも「行ってみたい」「やや行ってみたい」の割合は計3割未満で、地方移住希望者4割とは乖離がある。特に、Iターン移住については「あまり行ってみたくない」「行ってみたくない」が計80%、Jターン移住は84.2%に達する。具体的になるほど希望者が限定されるパターンはここでもみられる。一方、2地域居住に関しては、50~60代の3割が行ってみたいと回答し、しかも男女で認識のギャップが小さいことから実現性は高まろう。但し、2地域居住が「生涯活躍のまち」構想でイメージされている移住の姿であるかは不透明だ。

このように、計画を推進するために数字を良いように解釈している懸念もあり、高めの数字を前提に議論を盛り上げようとすることには慎重であるべきだろう。

9月、自民党総裁として再選を果たした安倍首相は、記者会見で“新”三本の矢を提唱したが、第二の矢として掲げた「夢をつむぐ子育て支援」のなかで、“三世代の同居や近居を促し、大家族で支え合うことも応援したい”と述べている。しかしながら、東京圏でも1時間未満に子供が住んでいる(同居等を含む)高齢者の割合が高い現実を踏まえると、高齢者の地方移住を促すことと首相の発言には、整合性が必ずしも十分とれているとは言えないように思われる。

(※1)なお、同構想は、“あくまでも住み替えの意向のある高齢者の希望実現を図る選択肢の一つとして推進するものであり、高齢者の意向に反し移住を進めるものではない”と、わざわざ報告に明記されている。
(※2)内閣官房「東京在住者の今後の移住に関する意向調査」(2014年8月)

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