文法と会話、英語ではどちらが大事?

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2015年09月30日

ロンドンを離れスウェーデンやデンマークなどの北欧諸国を訪れる機会があった。車窓から見える延々と続く白樺の森と湖の風景はロシアそのもの。また食事も黒パンやニシンの塩漬けなどロシア料理にそっくりであり(ザリガニを食べるのも一緒)、妻の実家に里帰りした気分になる。そういえば、スウェーデンを代表する家具店IKEAの食堂は、やたら雰囲気がロシアの食堂に似ていたのも理解できた。さらに、スウェーデンのストックホルム駅前は日本の新宿駅西口(+南口)にそっくり。やたらコンビニが多いことと、欧州にしては明るすぎる照明、建物やアスファルトの舗装など日本にいるかのような錯覚を覚えた。

一方、ロシアや日本と大きく違うのは英語力だろう。タバコ屋の販売員も、道行く人々も、とにかく流暢な英語を話し発音も良い。欧州を回っていても、ここまで公用語ではない英語を上手に使いこなす国があるのかと感心してしまうほどだ。英語が苦手なロシア人や日本人(ちなみにロシア人は、他の欧州のフランス人やスペイン人と同様、英語が全く話せない人が多い)と比較して、なにか特別な教育方法があるのだろうかと思い調べてみると、スウェーデン語やデンマーク語はゲルマン語属であるため英語と似た言語であるという。ただし、英語とは全く異なるウラル・アルタイ語属であるフィンランド人も英語が上手なことを考えると、やはり北欧での英語教育にカギがあるということだ。

ただし、英語を習う年齢はほぼ変わらない。日本とスウェーデンとロシアの義務教育は、6歳(第1学年中に7歳になる)から始まり、英語を習い始めるのが3ヵ国ともに10歳から(日本も2011年度に小学校5年生からスタート)。義務教育期間は15歳までなので、最低5年間は学習することになる。一方、デンマークは8歳から、フィンランドは9歳から英語を習い始めるので、少しアドバンテージがあるのは確かだ。ただし多くの日本人が実感するように、語学は習う時間に比例して上手くなることはまず無いため、英語学習の長さによる違いでは無さそうである。北欧での英語教育の基本は、理論に偏らず実践を組み込ませたカリキュラムが特徴といわれる。普段の生活でも、テレビやラジオの英語放送が多いこと(英語圏の番組が吹き替え無しでそのまま放送)などがメリットとして挙げられる。

また、興味深いことに、英国に留学する英語学校の生徒で対照的なのは、北欧と日本だという。北欧諸国の生徒は英語を話すことは完璧であるが、文法が全く苦手な場合が多い。日本人は話すのが全く苦手だが、文法は得意と両極端な結果が生じるそうだ。北欧では話すことを主眼においた教育であることが推察される。ただし、日本人は話す能力が低くて、文法(≒読み書き)が得意というのは迷信に過ぎない。英国人と対等に仕事をしていく上で、日本人が得意と言われる読み書きの英語力がビジネスメールや報告書の作成に事足りるとは考えにくい。特にビジネスの現場で最も使う能力は“書く”能力であり、これが得意であれば、少々会話が苦手でも十分に交渉は成立する。どちらがいいかはさておき、話すことに主眼を置いて、日本の英語教育をやり直すことには異論はない。ただし、英語が一生のテーマである日本人にとっては、北欧諸国に学ぶこともひとつの手かもしれないが、書く能力を発達させるカリキュラムの充実も必要といえるだろう。

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菅野 泰夫
執筆者紹介

金融調査部

主席研究員 菅野 泰夫