開示が始まった!"新"コーポレートガバナンス報告書

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2015年08月27日

  • 引頭 麻実

2015年はコーポレートガバナンス改革元年である。スチュワードシップ・コード、改正会社法、コーポレートガバナンス・コードの3つが出揃い、いよいよ運用段階に入った。

コーポレートガバナンス・コードは5つの基本原則およびそれに付随する、原則、補充原則あわせて、73の原則から構成されている。これらの原則について「Comply(遵守)」か「Explain(説明)」かの判断を上場企業が求められているわけだが、全ての原則に対する判断を開示するというのは実務的ではない。そこで東京証券取引所では、2015年2月、「コーポレートガバナンス・コードの策定に伴う上場制度の整備について」と題したペーパーを発表、諸原則のうち11の項目について開示が必要とした。具体的には、政策保有株式に対する方針、関連当事者間の取引、会社の経営理念や経営計画などについての情報開示の充実、取締役会の役割・責務、独立社外取締役の有効な活用、独立社外取締役の独立性判断基準および資質、取締役会の実効性の確保(3項目)、取締役・監査役のトレーニング、株主との建設的な対話(エンゲージメント)に関する方針、である。

これに基づき、東証はコーポレートガバナンス報告書の記載要領を2015年6月に改定した。ただし、2015年に限り、3月期決算企業の場合、新要領での開示は年末までとされている。

東証のコーポレート・ガバナンス情報サービスを使って検索すると、記載要領が改訂された6月1日以降7月13日現在において、東証1部、2部上場企業のうち、1,748社がコーポレートガバナンス報告書を開示した。このうち新要領に基づいた開示を行った企業を手作業で調べたところ、42社に留まっており、本格的な開示はこれからである

この42社の開示の内容を見てみると、コーポレートガバナンス・コードに対して全面的に「Comply」した企業は27社、「Explain」を選んだ企業は15社であった。「Explain」の15社がどのような項目に「Comply」しなかったかをみると、「独立社外取締役の有効な活用」、「取締役会の評価およびその開示」などの項目が多かった。さらに内容をみると、例えば、「独立社外取締役の有効な活用」については、現在1名だが来年度から検討したい、あるいは今後適切な人材がいた場合には検討したい、といったことが記載されていた。

しかし、ある企業では、独立社外取締役が4名選任されていたにもかかわらず、この項目が「Explain」となっていた。コードでは、「独立社外者のみを構成員とする会合」や「筆頭独立社外取締役の決定」などが補充原則として書かれていたことに対して、現在の形で十分機能していることなどから、「遵守しない」と説明されていた。全く異なる観点からの記載である。

これこそが、期待されている開示である。企業として、コードについてどのように考えているのか、また自社のガバナンスについてどのような考え方を持っているのか、これを財務諸表利用者は知りたいのである。

42社の記載をみると、紋切型の記載は非常に少なく、オリジナルの記載内容も多く見られる。コーポレートガバナンス体制は各企業が自社の経営実態や、経営環境にあった形で構築されるべきものであり、また各企業の状況変化に応じてブラッシュアップされるものである。それができてこそ、“稼ぐ力”に繋がっていく。

各企業の実情に応じた各社各様の取り組みは、ソフト・ローと位置付けられるコーポレートガバナンス・コードだからこそ、それが実現できる。今後開示される報告書が楽しみだ。

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