リスクアペタイト・フレームワークとは?

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2015年08月11日

  • ニューヨークリサーチセンター 主任研究員(NY駐在) 鈴木 利光

2007年の金融危機以後、バーゼルⅢをはじめとして、金融危機への反省を踏まえた数々の新しい規制や報告書が公表されている。

それらのうちの一つに、「リスクアペタイト・フレームワーク」(risk appetite framework)がある。

これは、銀行のコーポレート・ガバナンス強化の議論の一環として提唱された概念である。わが国ではここ1・2年の間に注目度を上げつつあるものの、多くの人にとっては馴染みのない概念であろうことから、ここで簡単に紹介したい。

まず、リスクアペタイトとは、「経営目標を達成するため、どのようなリスクを、どこまでとることを許容するか」(※1)をいう。

そして、リスクアペタイト・フレームワークとは、「経営者が経営目標を達成するために策定するリスクアペタイトを起点にした業務・収益計画、コンプライアンス方針、リスク管理方針、リスク枠・損失限度、ストレステスト、報酬制度、研修計画など、さまざまな内部統制の仕組み」(※1)をいう。

これらの定義からわかるとおり、リスクアペタイト・フレームワークは、リスクテイクの抑制のみに傾いた概念ではなく、必要に応じて適切な範囲でリスクテイクを行う旨を奨励するものである。

金融安定理事会(FSB)のガイドライン(※2)によると、リスクアペタイト・フレームワークを策定(文書化)するのは、代表取締役(CEO)である。それを承認するのは、取締役会内に設置された、独立社外取締役で構成される「リスク委員会」である。承認されたリスクアペタイト・フレームワークをCEO及び最高財務責任者(CFO)と協同で運用するのは、独立性があり、取締役会へのアクセス権限を有する「チーフ・リスク・オフィサー(CRO)」である。

先進的な実践事例としては、ストレステストを通じたリスクアペタイト・フレームワークの見直しや、リスクアペタイト・フレームワークを組織のリスクカルチャーとして定着させるための研修プログラムの実施などが挙げられている。

わが国の金融庁によるリスクアペタイト・フレームワークへの対応としては、「特にG-SIBs等については、リスクアペタイトフレームワーク(中略)を構築し、経営方針の策定や収益管理等の決定にも活用しているか、検証する。」(※3)としているにとどまる。

このように、対象をG-SIBs(※4)をはじめとする大手行に限定しているようにも解釈できることからか、わが国ではリスクアペタイト・フレームワークの導入は進んでいない。日本銀行が2015年3月に実施したアンケート調査によると、「リスクアペタイト・フレームワークを導入済み」と回答したのは、銀行等116社のうち9%であった。なお、「リスクアペタイト・フレームワークの導入を検討している」と回答したのは、19%であった(※1)

今後の留意点としては、まずは金融庁がリスクアペタイト・フレームワークの導入の対象としてD-SIBs(※5)を明記するか否かであろう。

(※1)日本銀行金融機構局金融高度化センター「金融機関のガバナンス改革」(2015年4月)
(※2)FSB“Principles for An Effective Risk Appetite Framework”(2013年11月)
(※3)金融庁「平成26事務年度 金融モニタリング基本方針(監督・検査基本方針)」(2014年9月)。下線は筆者による。
(※4)グローバルなシステム上重要な銀行(Global Systemically Important Banks)
(※5)国内のシステム上重要な銀行(Domestic Systemically Important Banks)

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ニューヨークリサーチセンター

主任研究員(NY駐在) 鈴木 利光