地方版総合戦略に必要な要素とは:NY連銀がプエルトリコに勧告した5つの政策

2015年8月6日

ちょうど一か月程前、ギリシア問題の大きさの陰に隠れてあまり目立ってはいないが米国の自治領であるプエルトリコの経済・財政危機が顕在化し、デフォルトの可能性についてクローズアップされた(※1)。そのプエルトリコは、実はニューヨーク連邦準備銀行(以下NY連銀)の第二地区(the Second District)(※2)の管轄下にある。管轄下と言ってもNY連銀の役割つまりコミットメントの範囲は経済・財政環境のモニタリングであり、口は出すがお金までは面倒は見ないということである。NY連銀は、2012年に「プエルトリコ経済の競争力(※3)」に関するレポートを公表し、2014年にアップデートを行った。現在のデフォルト問題が顕在化する前に課題を認識し、勧告を実施していたのである。

同レポートでは、人口減少、低い就業率、高コストのビジネス環境(規制・輸送・エネルギー)、社会保障等の歳出の大幅増などが、主要課題として挙げられていた。2012年の同レポートの調査時点では、生産年齢人口の中での就業率は47.5%(2010年時点。全米平均は同67.5%)の水準であり、失業率も14.8%(2012年)で全米平均8.1%の倍近い水準であった。NY連銀の勧告は、1)就業機会の増加、2)人材開発、3)ビジネスコストの削減、4)ビジネス開発・ビジネスの成長に向けたファイナンスの強化、5)衰退産業への依存の減少、であった。

プエルトリコの人口減少は米国本土への移民の増加を主な要因とする。人口減少によって税収基盤が低下する一方、歳出面では、労働力をつなぎとめるために社会保障・福祉の歳出を増やし、財政収支が悪化した。社会保障・福祉の充実は生産年齢人口の働くインセンティブを阻害して就業率を低下させた。

さらに、厚いセーフティ・ネットを背景として、一人当たりの付加価値と比較して賃金が高い水準にあり、プエルトリコの産業競争力に問題を生じさせていた。安価な労働コストを求めて進出した一部の大手企業にとって、規制・エネルギー・輸送コストが上昇する中、労働コストが生産性に見合わなくなることの影響は大きい。また、周辺の中南米諸国との競争に晒され、域内の大半を占める低付加価値の産業の維持も難しくなる。これにより、特に若くて低スキルの労働者の働く機会が狭められると同時に、更なる労働者の低スキル化が進展している。

プエルトリコの問題は日本の地方が直面する問題と類似している側面があり、どの自治体においても、同様の状況あるいは競争に晒されるリスクはある。この意味においてNY連銀の勧告は、現在各自治体によって作成されている地方版総合戦略に必要な要素を検討する上で大いに参考になろう。ただし、今後予想される地方版総合戦略をベースにした自治体間の“競争”の中では、一つ歯車が狂うとすべてが悪い方向に循環するリスクが高まることに最大の留意が必要ではないか。

(※1)現時点(8月3日時点)の状況では債務残高は約730億ドル。8月1日(当日土曜日。実際の支払日は3日)に償還を迎える債務支払いが滞るとデフォルトになると報道。
(※2)各連邦準備銀行の管轄地区は12に分かれる。その地区の一つ。
(※3)“REPORT ON THE COMPETITIVENESS of PUERTO RICO’S ECONOMY” 2012年6月29日

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