女性の活躍推進へ、求められる保育サービスの質改善

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2015年07月21日

  • 物江 陽子

6月末に発表された政府の成長戦略では、引き続き「女性の活躍推進」が重点テーマのひとつとされ、「待機児童の解消に向けた保育士の確保」が鍵となる施策として挙げられた。

前回の拙コラム(「女性の活躍推進と少子化対策の両立へ」2015年4月21日)では「待機児童解消加速化プラン」の進捗とともに、わが子が認可保育園に入園できたことに触れ、「筆者もこれで安心して働き続けることができる」と書いた。しかし、蓋を開けてみると、開園早々職員の退職が相次ぎ、認可園に入れたからといって必ずしも安心とは限らないと感じている。人手不足でベテランの職員確保は難しく、職員の負担は増し、退職があれば残された職員の負担はさらに増す。構造的な問題を背景に、安定して質の高い保育サービスを提供することの大変さを目の当たりにした。

もちろん安定して質の高い保育サービスを提供している園はあるのだが、現状は「認可に入れただけでラッキー」という状況で、保護者にとって選択の余地はかなり限られている。このような状況は、産後6割の女性が仕事を辞める(※1)理由のひとつになっているのではないか。質が高い保育サービスを得られないとなれば、経済的な余裕がある家庭では、子育てを優先して母親が仕事を辞めることが合理的な選択肢となるかもしれない。

「待機児童解消加速化プラン」が目指す「保育の量拡大」、これはもちろん非常に重要なことだが、「質」の確保を伴うものでなければならない。今、認可保育園の保育士の配置に関する基準は、三歳児クラスで子ども約20人に対して一人以上、四歳児・五歳児クラスで子ども約30人に対して一人以上である(※2)。これでは、手厚い保育サービスどころか、安全性の確保すら難しいだろう。60万人を超えるとされる“潜在保育士”がなかなか保育の現場に戻らない(入らない)のは、このあたりにも原因がありそうだ(※3)

国会でもこの問題は認識されており、2012年に子ども・子育て関連3法(※4)が成立した際には、附帯決議に「幼児教育・保育の質の改善を十分考慮する」ことが盛り込まれ、具体的な施策として「三歳児を中心とした職員配置等の見直し」が挙げられた(※5)。これら3法に基づき本年度から「子ども・子育て支援新制度」がスタートし、職員配置の改善も検討されている。

職員配置の改善には当然コストがかかるが、保育士の労働環境の改善につながり、保育サービスの質の改善につながるはずだ。財政難のなかではあるが、生産年齢人口が減少するわが国で、女性の活躍推進と少子化対策は待ったなしの状況である。保育士の労働環境が改善され、ほとんどが女性である”潜在保育士”が保育の現場に戻れば、それ自体が女性の活躍推進になる。上述したような施策により保育サービスの質の改善が進み、女性が活躍できる社会環境の整備が進むことを期待したい。

(※1)国立社会保障・人口問題研究所(2010)「第14回出生動向基本調査(夫婦調査)」によれば、2005~2009年に第一子を出産した夫婦を対象とする調査で、出産前に有職だった女性の62.0%が産後に退職している。
(※2)「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」による。
(※3)厚生労働省職業安定局が2013年に行った「保育士資格を有しながら保育士としての就職を希望しない求職者に対する意識調査」では、保育士としての就業を希望しない理由として、「賃金が希望と合わない(47.5%)」のほか、「責任の重さ・事故への不安(40.0%)」や「自身の健康・体力への不安(39.1%)」などが挙げられた。厚生労働省(2013)「『保育を支える保育士の確保に向けた総合的取組』の公表」
(※4)「子ども・子育て支援法」、「就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律の一部を改正する法律」、および「子ども・子育て支援法及び就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」を指す。
(※5)「子ども・子育て支援法案、就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律の一部を改正する法律案及び子ども・子育て支援法及び総合こども園法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案に対する附帯決議」(2012年8月10日、参議院社会保障と税の一体改革に関する特別委員会)

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