黒電話、再発見

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2015年06月15日

あちこちの街角に赤やピンクや黄緑の電話機が置かれていた頃、家庭に鎮座していたのは真っ黒なダイヤル式の電話機だった。正面の大きな円の縁に沿って0から9までの番号が並んでいるだけのシンプルなデザインで、受話器はずっしりと重く、ダイヤルを回すたびに、それがジーッと音をたてておもむろに戻ってくるのを待っていなければならなかった。

そのような「黒電話」は、いつの間にかコードレスホン、ファックス付き電話、留守番電話など多機能な電話機に取って代わられていた。きっかけとなったのは、1985年に日本電信電話公社が民営化されてNTTとなり、第二電電(現KDDI)などの新規参入が可能となったことである。この時点で、電話機もそれまでの独占的なレンタル方式から、一定の技術基準を満たした製品から選択可能な方式へと移行した。電機メーカー各社がさまざまな機能の付いた、デザインにこだわった電話端末を売り出し、黒電話はひっそりと姿を消していったのである。

ただし、黒電話には他にはない強みがある。多機能を謳う電話端末は停電になってしまうと通話すらできなくなるのに対し、黒電話は停電時でも通話可能なのである。このことは、2011年3月の東日本大震災の際に改めて注目されたため、ご存知の方もおられるだろう。筆者も停電していた仙台の実家との通話が、実家で現役であった黒電話のおかげで可能となった一人である。かつて使っていた黒電話を思い出してみると、壁からのびる黒いコード(=電話線)につながっているだけで、確かに電気コードは付いていなかった。実は黒電話は電話線から供給される電力を利用しているため、電話線と電話局さえ機能していれば、停電時も通話可能である。また、機能が非常にシンプルなので、故障が少ないという利点もあるという。

このような黒電話は、災害対応用の電話として積極的に再評価するべきではないだろうか。とはいえ、留守電もファックスもなにも付いていない電話端末の利用価値は低いと言われてしまうかもしれない。けれども、昨今では電話と言えば携帯電話であり、一人が一台以上を保有している計算になる。若年の単身世帯を中心に、携帯電話さえあれば固定電話は不要と考える人も増えている。また、固定電話を持っていても、その留守電機能やファックス機能の使用頻度は大きく低下しているのではないかと見受けられる。普段使いの携帯電話に加えて、固定電話を持つのなら「黒電話」にするという選択はいかがだろうか。

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山崎 加津子
執筆者紹介

金融調査部

金融調査部長 山崎 加津子