初任給引上げに関する素朴な感想

2015年4月8日

桜の咲く春は、雇用絡みの様々な話題がのぼる時期である。今年度から民間企業の選考開始のタイミングが数ヶ月後ずれすることになったが、企業などが開催する採用説明会やセミナーは3月から既に始まっている。

2015年3月に大学を卒業する学生の就職内定率は86.7%(2月1日時点)と前年から3.8ポイント上昇し、7年ぶりの高水準となった(※1)。ここ3年ほど女子学生の内定率が男子学生を上回っており、しかもその差は年々拡大している。就職希望率が高まっていくなかでの内定率アップであり(※2)、まさに女性の活躍推進を体現しているといえよう。このトレンドは、これから就職活動の本番を迎える来春卒業予定者にも当てはまるとみられる。

日銀が発表する短観の雇用人員判断DI(「過剰」-「不足」、2015年3月調査)をみると、人手不足を示すマイナス幅は製造業、非製造業を問わず拡大し続けており、特に中堅、中小企業の不足感は1992年以来の深刻さである。

企業の採用意欲の高さは新卒者の内定率のさらなる上昇につながるであろうし、働いている現役社員にとっては賃金上昇への期待が高い。身近なところでは、春季労使交渉、いわゆる春闘が挙げられるが、連合が公表した3月末現在の集計結果によると、定期昇給とベアを合わせた賃上げ額の平均は6,944円、賃上げ率は2.33%と前年同期の伸び率を上回った。これは、所得環境の改善が個人消費を促し、需要の増加を受けて企業が雇用や設備投資を拡大して一段の賃金上昇に結びつくという、経済の好循環の第一歩に相当する。

ただ、連合の集計結果でも大企業と中小企業の賃金上昇率には差が生じており、必ずしも人手不足感の度合いと賃金上昇率の関係は強くないようだ。また、連合などの労働組合の推定組織率は2割弱と低下に歯止めがかからない。全体の雇用者数は4年連続で増加しているものの、組合員数が減り続けているからであり、企業規模が小さいほど組織率が著しく低い点を考慮すると、中小企業の環境改善はどれほどかと疑問が残ろう。雇用確保を重視する労働組合と腰の重い企業経営者という現状においては、好循環の歯車を回すために、政府が政労使会議を通じて過度に介入するのも止むを得ないのかもしれない。

一方、新入社員や就活中の学生にとって、よりイメージしやすいのが初任給であろう。新規学卒者の初任給(大学卒・男女計)の水準は、デフレ状況下とはいえ、1996年=100として2014年=105程度である(※3)。ただ、人手不足のためか、あるいは政府からの強いプレッシャーのためか、昨年から初任給を大きく引き上げる動きが相次いでいる。

いわば、初任給は、これまで就業経験がなく、実際にどれだけの活躍をみせるか分からない新入社員に対する初期投資である。しかもベアも加わって正社員を解雇しにくい現状では、企業には大きな固定費負担となろう。従って、リスクを避けるためにも、新入社員が会社に適応できる人材か否か、十分な採用プロセスで見極める必要があると、強く感じた今春である。

(※1)参考:厚生労働省、平成26年度「大学等卒業予定者の就職内定状況調査」(2月1日現在)
(※2)上記資料によると、直近の男子大学生の就職希望率は70.9%と4年連続で上昇しているが、1997年3月調査の72.2%を下回っている。これに対して、女子大学生の就職希望率は84.3%(97年3月調査は76.9%)と調査開始以来過去最高を記録した。
(※3)参考:厚生労働省「賃金構造基本統計調査(初任給)

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