地方自治体は本気で地方創生を行うのだろうか

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2015年04月01日

今日から新年度。4月1日からは特例市(※1)が廃止され、従前の人口要件を緩めた新しい「中核市(※2)」に統一される。また、4月には統一地方選、5月17日には大阪都構想(※3)の賛否を決める大阪市の住民投票もあり、さらに今年度中には各自治体が地方創生の具体的な施策として「地方人口ビジョン」「地方版総合戦略」を策定するなど、今年度は地方が一層注目されそうだ。

そうした中、地方創生を如何に実現へ結び付けていくのかが、今後の安倍政権の行方を探るための大きなポイントとなる。昨年12月の「まち・ひと・しごと創生本部」において政府は地方創生の具体策を発表し、地方の民間企業の活躍を後押しすると思われる施策を数多く盛り込んだ。そうした施策を担うのが地方自治体である。主に行政面では地方創生特区による規制改革の活用等、財政面では補助金や優遇税制の利用等が考えられるが、そもそも地方交付税交付金(以下、地方交付税)による国からの財源補てんに依存した今の地方財政制度の下で、地方自治体が地方創生に真剣に取り組んでいくインセンティブはあるのだろうか。

国も含めた政府全体の歳出に占める地方の割合は6割と多いが、歳入は4割しかなく、その差は地方交付税や国庫支出金による国から地方自治体への財政移転によって調整されている。地方自治体が地方創生を行うインセンティブには様々なものが考えられるが、一番大きいのは地方税収の増加であろう。地方財政が厳しい中で地方税収が増加すれば、住民の意向を反映した独自の政策が行いやすくなる。

しかし現在の地方交付税制度は、地方創生等で地方税収を増やすと地方交付税が大幅に減額されて、結果的に地方自治体の歳入はそれほど増えない制度になっている。また、地方交付税の算定のために毎年行われる地方財政計画では、高齢化が進んで疲弊した地域ほど配慮がなされた財政移転が行われやすく、地方自治体が事前にそうした状況に陥らないように努力する仕組みが備わっていない。さらに、主に地方単独事業の実施のために発行される地方債や地方自治体の赤字公債として発行される臨時財政対策債の償還には将来の地方交付税が手当てされることになっている。このような現行の地方財政制度では、地方自治体の予算制約に対する意識を希薄化させ、財政的な危機感を抱きにくいものとなりかねない。

もちろん、2007年に成立した地方財政健全化法(※4)の施行によって、従来よりも地方自治体に財政の健全化を促す仕組みは整ってきた。さらに、最低限の行政サービスを維持するためには地方交付税による一定の財源調整が必要なのは言うまでもない。しかし、地方自治体の地方税収の引き上げ意欲を阻害しかねない現行の地方交付税制度の見直しも必要ではないだろうか。地方自治体の努力がそのまま地方創生につながるような地方財政システムへの改革は、国の歳出削減にもつながり、政府全体の財政健全化にも貢献するものと思われる。

(※1)特例市とは、地方自治法の改正により2000年から実施されてきた大都市制度の一つ。都道府県の権限を一部委譲するもので、その指定要件として「人口20万人以上」の市とされていた。
(※2)これまで中核市の指定要件は人口30万人以上の市であったが、2015年4月1日以降、人口要件が20万人以上へと緩和される。これに伴い従来の特例市は新しく中核市となり、保健所の設置などが可能になった。
(※3)大阪市を廃止し、大阪市が行ってきた広域行政は大阪府、地域密着の行政サービスについては再編成した行政区が担うことで、大阪府と大阪市の二重行政を解消して行財政の効率化を図る構想。
(※4)正式名称は「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」。

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溝端 幹雄
執筆者紹介

経済調査部

主任研究員 溝端 幹雄