健康増進と財政再建

2015年3月26日

  • パブリック・ポリシー・チーム 主席研究員 鈴木 準

新しい財政再建計画が本年夏までに策定される予定となっており、政府や政党では様々な議論が展開されている。政府財政の持続性を回復させるために必要な改革は多いが、特に社会保障改革、なかんずく公的医療保険の給付増をどう抑制するかが大きなポイントである。

医療は健康と命にかかわることであり、財政面からだけで考えるべきでないことは言うまでもない。しかし、国民皆保険の下、医療に関する個々のサービスや財の費用の大部分は、その購入者(受益者)以外が負担しているという特徴がある。公的医療保険が財政を通じて行われている以上、一定レベルの皆保険制度を守るためにこそ財政の持続性確保が必要である。

医療保険給付費の増大を抑制する方策については既に多くの提案があるが、最も望ましいのは人々が健康を維持し、病気に罹らないようにするということだろう。定期的に健康診断を受けていない方はまずはそこから始めていただきたいし、健診結果で問題が見つかった方はそれを放置しないことが重要である。

OECDによると、日本は、自身の健康状態を良いと回答した人の割合でみた健康度が極めて低く(OECD Health Statistics 2014)、また、治癒的治療を指向する現行の医療制度について、プライマリーケアの体系や基盤に深刻な課題があると指摘されている(OECD Reviews of Health Care Quality JAPAN、14年11月)。予防医療が十分に機能しておらず、健康の価値が軽視されているために、病気になってはじめて高額の医療費をかける社会になっているのではないだろうか。

他方、企業活動に関連して、健康投資が業績パフォーマンスに好影響を与えるという報告が増えている。メンタルヘルス休職者比率が上昇した企業は売上高利益率の落ち込みが大きい、健康投資のリターンは投資額の3倍以上、といったことである。また、Fabiusらによると、米国職業環境医学会により厳正に評価された企業への投資ポートフォリオの累積利益は、S&P500を大きくアウトパフォームするという(Journal of Occupational and Environmental Medicine、13年9月)。

折しも昨日25日、東京証券取引所が健康経営銘柄の選定結果を発表した。従業員の健康の維持と増進が、企業の競争力や生産性を大きく左右する要素であると認識されるようになっている。日本には健診データやカルテ、レセプトデータが蓄積されているが、それらが健康増進のためのインフラとして体系的に活用される状況にはなっていない。この課題に取り組むことは、経済再生と財政再建の両立を目指すことそのものだろう。

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