アジアインフラ投資銀行への英国参加の思惑

2015年3月25日

  • ロンドンリサーチセンター シニアエコノミスト 菅野 泰夫

中国が主導する新たな国際金融機関であるアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加に関する欧州の動きが慌ただしい。英国のオズボーン財務相が参加を正式に表明したとたん、続けざまにフランス・ドイツ・イタリアも参加を表明した。日本と米国が参加に慎重な姿勢を見せる中、欧州ではスイスやルクセンブルクも参加の意思を示し、AIIBの参加国は既に30を超える。

英国メディアでは、今回の参加表明に対し賛同する論調が多く見られる一方、米国の反応は厳しく、「国家の決断」であると皮肉に満ちたホワイトハウスの声明を見ただけでもその苛立ちが感じられる。これに対し、英国ガーディアン紙は、オズボーン財務相が米国のルー財務長官と声明発表前に緊密に連絡を取っていたと反論している。また英国のキャメロン首相は「米国と違ったアプローチをとる機会は今後もあるだろう。(今回の参加表明は)英国の国益のために行った」と述べた。

特に5月に総選挙を控える英国にとって、インフラ輸出や資金調達面での対中ビジネスの拡大を、票田となる金融・産業界への支持層拡大につなげたいという本音も見え隠れする。また未開の資源が期待できる中央アジアのカザフスタン、タジキスタン、ウズベキスタンやモンゴルなどが参加しており、欧州復興開発銀行(EBRD)やアジア開発銀行(ADB)が手薄な部分を補うことへの期待も大きい。かつて、はるばるビルマ(現ミャンマー)まで占領していた英国にとって、広範囲なアジア地域の資源開発およびそれに伴うインフラ整備のポテンシャルを十分理解した上での出資判断とも目されている。筆者は数年前に調査でモンゴルの首都ウランバートルに滞在したことがあったが、草原に眠る手付かずの資源の多さに驚いたのをよく覚えている。中国が、わざわざ資源開発のためにアフリカまで行く必要がないとして、手付かずのアジア市場に目を付けた狙いは非常に興味深い。

ただし、年間約8,000億ドルものインフラ建設を期待したとしても、本当にAIIBへの出資で対中貿易を大きく拡大させられるかは疑問といえる。これまで、中国ビジネスで、なかなかリターンが実らなかったのは日本だけでなく欧州も同じといえるだろう。投資先選定の過程や、実際の審査基準、融資方法が漠然としていることも懸念材料として残る(あえて、今風に名前を投資銀行としているところも若干引っかかる)。メディアでは、世銀、IMF、ADBとの比較も多いが、そもそもこの3つの国際機関は、短期融資がIMF、長期融資が世銀、中期でアジアに特化したのがADBと根本的に役割が違う(唯一の共通点は米国主導ということであろう)。AIIBは、むしろアグレッシブなプリンシパル投資と東欧地域の復興開発が併存するEBRDのイメージがピッタリかもしれない。

また欧州各国がAIIBに参加する思惑は、米国主導の国際金融体制への反抗ともとれる。保守的とされる英国が実利を求めて中国へ接近している事情からしてもその気持ちの強さが伝わってくるといえるだろう。アベノミクスが一段落し、日本への関心が再び低下している状況の中、今回のAIIBに対する欧州の熱烈なアプローチからは、国際金融市場での中国の存在感の大きさを感じずにはいられない。

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