所得再分配を担う米国の大学授業料

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2015年03月12日

  • 大和総研 顧問 岡野 進

米国の大学の授業料はかなり高い。現在、多くの私立大学の授業料は年間4万ドルを超えている。おそらく実際のコストよりは高めに設定されていると想像する。しかし、一流校では4万ドルを超える授業料を全額払っている学生は実は多くない。一流校の場合、大学の運営する奨学金制度があり、実際にはほとんどの学生が奨学金を受けているのである。奨学金制度は大きく2つに分類することができる。ひとつが、Need Based、もうひとつがMerit Basedである。前者は学生や親の経済状況に応じて支給するもの、後者は学生の成績あるいは能力に応じて支給するものである。

超一流校の場合、大学自体の奨学金としては前者のNeed Basedしかないことが多い。なぜか?第一に、超一流校への入学自体が相当に狭き門であり、十分に能力を証明しているとみなせるし、そういう学生が出願してくる。だから、あえてMerit Basedの奨学金を設定する必要はないということかもしれない。例えば、ハーバード大学の場合にはNeed Basedの奨学金があり、大学自体に相当の資金力があるので、かなり充実した制度になっている。家庭の年収が65,000ドル以下の場合は授業料ゼロ、65,000ドルから150,000ドルの場合は年収の0 から10%の間に相当する額だけ授業料を払ってもらい、残りは奨学金で充当するポリシーである。実際に43,938ドルの授業料を全額払う学生は相当の高額所得者の子女だけということになる。

この奨学金制度はいわば所得再分配の機能を果たしているとみなせるだろう。例えば、年収5万ドルの家庭はゼロ、年収15万ドルの家庭は15,000ドル、年収50万ドルの家庭は43,938ドルの授業料を払う。税制の累進性をさらに補完するような働きをしているし、教育の機会均等の実現に一役買っているといえるだろう。ハーバードまではいかないまでも同様の奨学金制度はアイビーリーグ校をはじめとする一流校で採用されている。

地方の一流校では優秀な学生を確保するため、Need BasedのほかにMerit Basedの奨学金を用意している場合もある。例えば出願してきた優秀な学生に合格通知と同様に授業の半分程度の奨学金を出すというオファーがされる。場合によっては、出願の始まる前から優秀な高校生にそうしたオファーをして受験を促す場合もある。Merit Basedとはいえ、奨学金が出るから出願したいというのは所得が高くない層の優秀な学生である場合が多く、これも所得再配分機能を持っていると考えることができるのではないだろうか。

ただし、外国からの留学生は授業料全額納入が前提で、奨学金は学外の財団などの奨学金を得るようにするほかはない。つまり、米国の大学が一種の輸出産業としても機能しているということになる。

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