デリバティブ取引の証拠金規制、「2015年12月実施」の信憑性

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2015年02月25日

  • ニューヨークリサーチセンター 主任研究員(NY駐在) 鈴木 利光

2014年7月、金融庁は、金融商品取引業者等を対象とした、「非清算店頭デリバティブ取引」(※1)に係る新規制の導入案(証拠金規制案)を公表している。

証拠金規制案は、バーゼル銀行監督委員会(BCBS)と証券監督者国際機構(IOSCO)との間における2013年9月の国際合意(BCBS/IOSCO合意)を、わが国の法律等に落とし込むものである。

証拠金規制案の内容は、一定の非清算店頭デリバティブ取引について、変動証拠金(時価変動額)及び当初証拠金(最大予想損失額)の授受を義務付けるというものである(※2)

国際スワップデリバティブ協会(ISDA)の見積り(2012年11月時点)によると、グローバル規模で想定元本残高が600兆ドルをくだらない店頭デリバティブのうち、127兆ドル相当分は清算集中に不向きな複雑系の取引であるという。

これだけの規模の非清算店頭デリバティブ取引がBCBS/IOSCO合意の適用対象となる点にかんがみ、同じISDAの見積りでは、当初証拠金の授受の義務付けは、グローバルな金融セクターに、合わせて8,000億ドルもの追加的な負担をもたらしうるという。

BCBS/IOSCO合意によれば、変動証拠金の授受は、2015年12月1日から実施される予定である。また、当初証拠金の授受は、非清算店頭デリバティブ取引の想定元本額の規模に応じて、2015年12月1日から2019年12月1日にかけて段階的に実施される予定である。

このように、あくまでも予定ではあるものの、既に実施まで1年もなく、対応を余儀なくされる関係者にとっては差し迫った状況と言える。

しかし、ここにきて、とくに欧州(EU)と米国にて、「2015年12月実施」の実現可能性に疑問符が付けられている(※3)

事実、米国、EU、日本という主要な法域のいずれにおいても、証拠金規制案の規則案は公表されているものの、未だその最終規則が公表されていない。また、各法域の規則案には、内容にばらつきがあり、これから2015年12月までの間にクロスボーダー取引における規制の調和を実現するのは非常に困難であると予想される。

この点を主な理由として、ISDAは、2014年8月、BCBSとIOSCO宛に、BCBS/IOSCO合意の実施時期を、少なくとも各法域の最終規則が公表されてから2年後(※4)に先送りする旨の要望書を出している。ISDAは、「2015年12月実施」の延期に手ごたえを感じているようである。

もしBCBS/IOSCO合意の実施時期が延期されれば、店頭デリバティブ市場の主要な参加者にとって、大きな「救済」となるはずである。

(※1)中央清算機関(CCP)を通じた決済(清算集中)がされない店頭デリバティブ取引をいう。
(※2)詳細については、大和総研レポート「非清算店頭デリバティブ取引の証拠金規制案」(鈴木利光)[2014年7月28日]を参照されたい。
(※3)次の報道を参照されたい。
・REUTERS “UPDATE 1 –Derivatives watchdogs expected to agree swaps rules reprieve”[2015年1月19日]
・FINANCIAL TIMES “US considers delay to OTC swap rules”[2015年1月23日]
(※4)早くとも「2017年半ば」とするのが現実的と思われる。

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ニューヨークリサーチセンター

主任研究員(NY駐在) 鈴木 利光