「アメリカ人」の数を考える

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2015年02月04日

  • 土屋 貴裕

人口動態は中長期の経済発展には欠かせない重要な要因である。人は毎年1歳ずつ年を取り、働き盛りの人口と退職したであろう人口の量感なども、経済全体の動向の現状把握や将来予想には欠かせない。

ところが、「アメリカ人」が何人いるのかを数えるのは実は難しい。アメリカ国籍を持っているかどうかだけでは、居住者なのか判断できないし、二重国籍者はどうするかという点もある。国籍以外にも多くの観点があり、アメリカに労働者はどのくらいいるのか、どのような消費者や納税者が増えているのか、選挙の投票動向など、といった複数の切り口がある。永住権(グリーンカード)や駐在員のような非移民ビザでは選挙権がないが、労働者や消費者という観点からは数えられるべきであり、不法移民も同様だろう。選挙を通じた影響力は限られても、アメリカ経済の動向に影響することは間違いない。必要に応じて「アメリカ人」の定義を変え、目的に応じて数え方を使い分ける必要があるのだろう。ひょっとすると、国民国家という単位で「アメリカ人」を数えることは困難なのかもしれない。

人々が一つにまとまる原理の一つには、地縁や血縁などを含む過去を共有していることが挙げられるだろう。多くの人は他人と共通の話題を探す。例えば、同窓会において校舎や学校の近辺、あるいは先生などの共通点の発見は一体感の形成に役立つだろう。自らのルーツとなる歴史を知り、繁栄と衰退の結果が自分の生きている今につながることを理解することは、同様の経緯を辿ってそこにいる隣人と共有できる基礎的な感覚を形作ると考えられる。だが、そこに住むすべての人々に均質性あるいは同質性を求めることは無理があり、必ず少数者を生み出し、少数者を否定する不寛容さにつながる可能性がある。

アメリカに住む人々が、先祖を遡っていつからアメリカに住んでいるかはまちまちで、アメリカで過去の記憶を共有することには限界がある。合衆国という連邦国家で州の権限は強く、州によって制度も異なるが、独立時点の13の植民地も未来を志向してまとまった。今もアメリカへの移民は希望を求めてやって来る。アメリカへの移民は国家への忠誠を求められるが、少数者を含む様々な主張の存在は法的に保障されている。「アメリカ人」としてまとまるため、「アメリカ人」の定義の前提になっているのは一部の過去を共有しつつも、主として「未来を共有」していることなのかもしれない。だとすれば、アメリカ人の数を数えるのが難しいことや、アメリカらしいとされる前向きな思考も理解できるように思う。

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