企業に求められる自由演技

情報開示は新しい局面に

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2015年01月16日

  • 引頭 麻実

今年はいよいよコーポレートガバナンスの本格開花の年を迎える。2014年6月に公布された「会社法の一部を改正する法律」では、コーポレートガバナンスを中心に法が改正され、その施行は2015年5月が予定されている。また、現在金融庁は1月23日までの予定でコーポレートガバナンス・コード原案についての意見募集を行っており、2015年6月の株主総会集中時期には間に合わせたい意向を持っている模様である。このようにこれまで進めてきたコーポレートガバナンスに関する枠組み、ルールが今年、本格適用される見込みである。

前述のコーポレートガバナンス・コードの細かな内容については別の機会に譲るとして、大きな特徴を述べると、「Comply or Explain」の精神が随所に貫かれている点である。

「Comply or Explain」とは、「ルールに従え、さもなければ、それを説明せよ」という意味で、ルールに従わないのであれば、その理由について十分に説明すべし、ということである。このように書くと、企業には「ルールに従わない」という自由が残されているのか、と驚く向きもあるかもしれない。まさに、企業が自身で選択するという点が大きなポイントである。

実は上場企業の情報開示における企業の自由度は、格段に高まっている。例えば、決算短信における業績予想については、大震災翌年の2012年3月、震災後の混乱で業績予想が非常に難しくなっているとの声などをうけ、東証は「業績予想開示に関する実務上の取扱いについて」を発表、業績予想の開示形式は従来のような売上高や利益といったような数値でなくても良いとされた。具体的には、定性的な記述や経営指標や財務指標の見込みの記載等でも良いということとなった。さらに、場合によっては業績予想を開示しないことも認めている。ただし、この場合には、その理由およびインサイダー規制等への抵触がないように企業に対して社内措置を要請するとともに、業績数値が固まった時点での速やかな適時開示を求めている。

このように、規則のみをみれば情報開示における企業の自由度は高まっている。本来であれば開示の多様化が進むはずであるが、それが進んでいるとは言い難いのが実態である。

企業としてはついつい他社の開示状況をにらんだうえでの“横並び開示”になってしまうのは致し方ない。企業が情報開示に非常に消極的だった時代には、こうした“横並び開示”は、実は利用者側にとっても好都合であった。しかし、時代は進んでいる。

情報開示多様化のトリガーとしてコーポレートガバナンス・コードが鍵を握る可能性が非常に高い。コーポレートガバナンス・コードについて各企業は情報開示することになるが、この情報はまさに企業活動の根幹の情報であり、各社の開示内容が一律とは成り得ない性質のものである。企業によっては一部のコードについては従わないことを選択するケースもあるだろう。こうした開示情報の多様化が利用者にとって、企業との対話の糸口となり、その対話を深掘りするための重要な材料になるものと見られる。まさに、持続的成長にむけて企業と投資家の対話が促進されるのである。

当初は企業にとってこの多様化は多少気持ちが悪いものになるかもしれない。どこまでやれば免責されるのか、何をもって十分とされるのか、さっぱりわからないのが実情である。当然ながらどこかが御墨付きを与えてくれる訳でも無い。しかし、その基準を企業が自ら考え、判断していくことが求められており、このプロセスこそ、コーポレートガバナンスの進化ではないか。企業に求められるのは、自由演技である。

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