コーポレートガバナンス・コードにおける社外取締役中心の会議体設置提言

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2014年09月09日

8月初旬からコーポレートガバナンス・コードの策定に向けた有識者会議が始まった。コードに盛り込む事項についていくつか政策提言が出されており(※1)、社外取締役の増員や、社外取締役中心の会議体設置、取締役向け研修の実施などには、多くの政策提言が言及している。本稿では、ややマイナーなテーマだが社外取締役中心の会議体設置について、米国の事情なども踏まえて、論点をいくつか記したい。

自民党の「日本再生ビジョン」では、「社外取締役と監査役による合議体を内部通報窓口にするなど、内部通報制度の充実やその活用に向けた制度の構築が合わせて必要」と内部通報制度と関係させた導入を勧めている。CGネットは、「会社内部のしがらみにとらわれない活発な議論を促す」との項目の中で「社外取締役だけ、又は社外取締役及び社外監査役だけで議論する場の設置」を言う。米国CIIは、「独立取締役は業務執行取締役や彼らのスタッフがいない場で、定期的にエグゼクティブセッションを開催すべき」とのポリシーを有している。ACCJでは、「コーポレート・ガバナンス・コードにおける実務が確実に法的根拠に基づいたものとなるよう法改正を求める」としており、「特定事項(略)に関する意思決定権限を独立社外取締役のみで構成された『特別取締役会』に正式に委譲することを認めるように会社法を改正すること」を提言している。

エグゼクティブセッションは米国NYSEの上場基準に定められており、通常は、取締役会に引き続いて開催される社外取締役のみで行う会議のことだ。CEOなどの業績評価や報酬、後継人事などについて検討する。CEOの面前では、話しにくいことを話す場である。

一方、ACCJの「特別取締役会」は、米国のSpecial Litigation Committee(SLC)に近いように思える。これは、例えば株主代表訴訟が提起された場合に、請求内容について会社の最善の利益に合致するかどうかといったことを審査する組織だ。代表訴訟を継続することが会社の最善の利益ではないとSLCが決定すると、多くの場合裁判所はその判断を尊重して、訴訟を終了する。

エグゼクティブセッションは、エンロン事件後にNYSE上場基準に記されるようになった。またSLCは、株主が提起する訴訟との関連で大きな機能を果たす。制度の背景には、その国それぞれの歴史的経緯があるし、他の制度との関連もあり、簡単に模倣や輸入できるものではないだろう。社外取締役中心の会議体にどのような役割を期待するのか、その役割を果たすためには、どのようなインセンティブが必要か、既存の法制度との関係はどうかなど、我が国の実情に即した検討が必要なように思える。

(※1)自民党:自由民主党日本経済再生本部「日本再生ビジョン」(平成26年5月23日)
CGネット:特定非営利活動法人日本コーポレート・ガバナンス・ネットワーク理事長コメント「コーポレートガバナンス・コード策定に向けた提言」(平成26 年7 月29 日)
米国CII:Council of Institutional Investors  安倍総理大臣宛書簡(2014年7月9日)
ACCJ:在日米国商工会議所意見書「ベストプラクティスの採用と開示の統一化を日本の上場企業に促すためのコーポレート・ガバナンス・コードの導入」

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執筆者紹介

政策調査部

主席研究員 鈴木 裕