「想定内」の反動減

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2014年07月07日

  • ロンドンリサーチセンター シニアエコノミスト(LDN駐在) 橋本 政彦

2014年4月に消費税率が引き上げられてからおよそ3ヶ月が経過し、ようやく増税後の経済状況を定量的に把握できるようになってきた。増税前に駆け込み需要が大きく発生した結果、4月以降、個人消費が大幅に落ち込んでいることが、経済統計で改めて確認できている。しかし、増税後の経済状況、特に反動減による悪影響については、大幅に販売が減少している小売関係者も含めて「想定内」との声が多いようである。こうした声を受けて、増税後の景気動向を明るくみる向きは少なくないが、「想定内」であることと、景気が悪化していないということは全くの別問題である。個人消費は「想定通りに落ち込んでいる」のであり、企業のマインドが大幅に悪化していないからと言って、足下の景気悪化を割り引いて評価することは正しくない。

ただし、足下の景気悪化について企業が「想定内」と感じていることは、景気の先行きを考える上では好材料である。仮に企業の想定以上に景気が悪化した場合、急速に在庫が積みあがり、在庫調整圧力が生産や景気の下押し材料となるはずである。また、想定外の需要減少は企業のストック調整圧力を高め、設備投資の減少や、リストラを通じて景気を一層悪化させることになる。こうした企業部門の調整は家計所得の下押し要因となることから、想定外の度合いが大きくなればなるほど、反動減によって落ち込んだ需要の回復は鈍くなる。

駆け込み需要はいわば需要の先食いであるため、その後の反動減の発生は避けられない。今後の最大の注目点は、こうした落ち込みから個人消費がいかに回復するかであることは間違いない。個人消費が速やかに持ち直していくことが当然望ましいが、仮に停滞が続いたとしてもそれが企業の「想定内」であれば、個人消費の停滞をきっかけに景気が加速度的に悪化する可能性は低いのではないか。企業が増税後の景気の持ち直しをどう考えているかを実際に確認することは困難であるものの、個人消費の動向だけでなく、企業の在庫や投資の動向を今まで以上に注意深く見ていく必要がある。

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橋本 政彦
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ロンドンリサーチセンター

シニアエコノミスト(LDN駐在) 橋本 政彦