女性の社会進出とPTA活動

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2014年06月03日

今月に発表予定の政府の成長戦略の改訂作業が、現在、最終段階であるものと思われる。その中でも雇用・労働市場改革が大きな柱の一つに据えられるだろう。内容としては、女性の社会進出を促すための保育所・学童保育の拡充策や有価証券報告書への女性役員比率の記載等が含まれる見込みだ。ただし、女性の社会進出は非常に幅広い経済・社会分野との関わり合いを持っている。その一つとして無視できないと思われるのが、教育現場と保護者(親)を結びつける場であるPTA(Parent Teacher Association)の存在だ。

そもそも、PTAは戦後、本格的に日本に導入されたものである。PTA活動を通じて「一般成人に対して民主主義の理念を啓蒙する」(※1)との目的で、当時のGHQ(連合国最高司令官総司令部)が日本での導入を推し進めた経緯がある。当時の文部省等もPTAの普及を強力に支援し、PTAは全国で急速に広がった。

PTAでの活動は、会員である保護者や教師同士が互いに学びあい、教育や地域等に対する理解を深めていき、それを子ども達に還元していくといったメリットがある。ただし本来、PTAへの加入や退会は自由である。PTAと関係する法律には社会教育法というものがあるが、そこにはPTAに関する明確な規定は設けておらず、あくまで任意加入の団体(社会教育関係団体)という位置づけにすぎない。それにもかかわらず、PTAへは半ば強制的に保護者が加入させられるのが実態であり、その一方で、役員の決定等では個別の事情に対する配慮があまりなされず、図らずも役員となってしまった保護者の負担が大きいという話もよく聞く。

労働力人口が減少し、特に女性の社会進出は喫緊の課題だ。しかしその一方で、現在の主流である核家族・共働き世帯では未就学児の世話や親の介護の負担が大きく、それらサービスを外部から調達する体制もまだ十分であるとは言えない。ましてや、PTA活動も加わると、半強制的な無償労働が上乗せされる。新しい社会構造に応じた、PTAの活動範囲の適正化や参加の在り方、そして存在意義等を本格的に検討する時期に来ているのではないだろうか。

例えば、PTA発祥の地である米国では、通常は保護者にPTAへの参加の是非を問い、もし参加する場合は事前に自分が参加できそうな仕事や時期を特定するといった取り組みが行われている。すべての運営に参加するのは難しくても、この分野は得意だとかこの時期は余裕があるのでPTA活動に積極的に参加できる、という場合もあるだろう。また、PTA活動が多忙であれば、例えば一部の活動を専門の外部業者に委託するという運営方法も考えられるのではないか。

もちろん、現在政府で議論されている長時間労働が是正されて、休日・休暇の取得が義務化されれば、PTAへの父親の参加も増えて、これまで大きかった母親の負担が減るかもしれない。しかし同時に、慣習的な運営が行われやすいPTA活動の改革も必要ではないか。慣習を支配する力は人々が共有して持つ考え方そのものにある。例えば、政府が何らかのガイドラインを提示して人々の考え方に変化を与えることができれば、PTAへの認識も変わるかもしれない。

(※1)公益社団法人日本PTA全国協議会ウェブサイト「日本PTAの歩み」

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溝端 幹雄
執筆者紹介

経済調査部

主任研究員 溝端 幹雄