古典SFのススメ

2014年4月15日

最近のICTサービスは、SFの小道具を具現化したようなものが少なくない。スマートフォンに話しかければ、おいしいレストランを紹介してくれる。よく行く店に入れば、好みの新商品を薦められ、財布を出すことなく、ゲートを通ったら自動的に精算が終わる、といったことも実現しつつある。また、ウェアラブル端末によって、さまざまな生体情報(心拍数、心電波形、睡眠リズムなど)を簡単に取得・管理できるようになった。

一方で、気にかかるサービスも出てきている(※1)。例えば、万引き犯を現行犯として拘束した際に、同意を取って画像を登録し他店と情報共有することで、以降の入店の際にカメラの顔認識技術で検知するものがある。恣意的な運用(イヤな客や好みの客の検知などによるクレーマー扱いやストーキング)が行われないかどうかは店舗次第であり、技術だけで制御できるものではないだろう。また、カメラで車のナンバープレートを読み取って、住所(町名や大字レベルまで)を取得し、マーケティング分析などに活かすサービスがある。撮影によって車種や色もわかれば、家を特定できてしまう地域があるかもしれない。その他、携帯電話やスマホの位置情報を利用してマーケティングや防災対策に役立てようという実験は少なくない。

万引き対策、マーケティング分析、防災対策など、それぞれの目的は肯定されるものだが、企業や研究機関が得られるメリットに比べ、パーソナルデータを取得・管理される側のデメリットの方が大きいと感じられる場合、反対の声が上がるのだと思う。例えば、複合施設のカメラで撮影した画像を基に動態分析する実験が延期された(※2)し、鉄道の乗降履歴を使った分析用データ提供についても、批判の声を受けて検討した結果、データ提供は見合わされている(※3)。中止の理由には、市民・利用者の懸念への配慮不足の他に、制度的な課題や技術的な課題などへの指摘があったことが挙げられている。社会的に意義のある目的だけでは十分ではなく、デメリットを低減させるような仕組み(情報保護などの他に罰則・規制や補償など)がないと受け入れられないという例だろう。

ここで、新技術の登場で社会がどうなるかという視点を持つために、「たったひとつではないが冴えたやりかた(※4)」として、古典SFを読むことをおススメする。P.K.ディックの小説が原作の映画『マイノリティ・レポート』では、網膜スキャンによって人物が特定され、好みの商品がデジタルサイネージ(電子看板)に表示されていた。当局のしていることに疑問を持った主人公は、このシステムから逃れて身を隠すのに苦労していた。買い物も運転も消費電力管理も健康管理もICTに依存しつつある現在、意思を持つ(ように見える)コンピュータHAL 9000が乗組員の生殺与奪を握った『2001年宇宙の旅』や、人間の記憶を引き継いだ非常に人間臭い子守ロボットが出てくる手塚治虫の『火の鳥』を見直すのもいいだろう。いずれも原作は半世紀も前に書かれたもの(※5)であるが、古いと侮ることなかれ。

(※1)いずれも2014年4月7日、8日に閲覧したプレスリリースや各種報道の情報を基にしている。
(※2)独立行政法人情報通信研究機構 2013年11月25日「大規模複合施設におけるICT技術の利用実証実験を大阪ステーションシティで実施」/2014年3月11日「大阪ステーションシティでのICT技術の利用実証実験の延期について」
(※3)JR東日本 2014年3月20日 「Suicaに関するデータの社外への提供について」
(※4)ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア『たったひとつの冴えたやりかた』というSF小説のタイトルにかけただけで、深い意味はない。
(※5)その他に、コンピュータの見せる仮想世界に耽溺した人間が出てくる作品(光瀬龍『百億の昼と千億の夜』、P.K.ディックの作品には映画『トータル・リコール』の原作『追憶売ります』など)も多いが、ネットとリアルの境界線が曖昧になっていく今後の社会を考えるヒントになるかもしれない。

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