経常収支ゼロの実態に陥った日本

年間6兆円の内部留保が外国に帰属

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2014年03月20日

  • 大和総研 顧問 岡野 進

日本の貿易収支は、2011年以降は慢性的な赤字状態に陥っている。しかし、経常収支はなんとか黒字を維持してきた。その理由はこれまでの黒字を積み上げた結果である外国への投資から得られる収益が大きくなっており、投資収益収支が大きな黒字で貿易赤字を上回ってきたからである。2013年の財務省発表データで見ると、貿易収支は10兆6,399億円の赤字に対して、投資収益収支は16兆5,365億円の黒字であり、その他の所得収支やサービス収支を含めた経常収支は3兆3,061億円の黒字となっている。2012年は4兆8,237億円の黒字であったので黒字の減少が続いている姿であり、2007年のピーク24兆9,341億円から大きく減少している。

2013年は国際収支統計上では経常収支黒字をかろうじて維持していたが、中身を検討していくと、実態的には経常赤字状態になっているとも解釈できてしまう状況である。問題は投資収益収支である。現行のIMF方式では、投資収益収支のうち直接投資に関しては投資に帰属する利益額を計上することとなっている。一方、証券投資の場合は、利子・配当の受取・支払を計上している。この方法の問題点は株式投資の場合に株式保有に伴って帰属する内部留保の部分が含まれないことである。株式投資に伴う利得が過小評価されていると考えることができる。実際の2013年の配当収支は3兆360億円のプラスになっている。受取分は5兆2,560億円と巨額だが、これには投資信託やファンドなどからの分配金の受取もかなり含まれており、純粋な株式配当だけではないと思われる。

日本の対外資産負債残高(2012年末、財務省)を見ると、日本から外国への株式投資残高は59兆4,750億円、外国から日本への株式投資残高は83兆5,560億円と株式投資残高に関しては大幅な受入超過である。もしも、株式投資による内部留保の帰属まで考えて経常収支を捉えるのであれば、その収支は赤字になっている可能性を否定できない。

大和総研データバンク室で推計(2014年2月18日現在の内国上場会社3,542社を対象)してみたところ、2013年度の上場企業全体の利益額は約28.9兆円と予想されるのに対して、そのうち株式保有を通じて外国人に帰属する額は約8.4兆円となる。また、配当額は上場企業全体で約8.2兆円に対して、外国人に帰属する額は約2.4兆円と推計された。(国際収支統計では2013年に外国に支払われた配当額は2兆2,213億円)つまり公式の経常収支統計上には表れない日本企業の内部留保の外国人投資家への帰属額は約6兆円あることになる。この分だけ投資収益の支払が過小評価になっているという考え方もできる。

一方、日本から外国への株式投資についても帰属する内部留保があるはずだが、推計はなかなか難しい。概して欧米企業の配当性向は日本企業より高いと言えそうだが、日本からの投資先について同様のことが言えるかは推計が困難である。S&P500種で見ると、2013年の平均益回りは6.1%、平均配当利回りは2.1%であったので、株価に対する内部留保の率は4%程度と考えられる。やや大胆な仮定ではあるが、仮にこれを日本の外国株式保有に当てはめれば、帰属する内部留保は2.4兆円程度ということになる。

幅を持って見る必要があるが、仮に株式保有に帰属する内部留保分の収支を考えれば、日本が3兆円程度支払超になっている可能性があるだろう。現行方式の2013年の経常収支は3兆3,061億円の黒字なので、これをほぼゼロとする可能性がある。足元で経常収支が改善する兆しを見せていない今、年間を通して経常収支が実態的にはマイナスに陥りつつある危険性は認識されておいていいだろう。

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