ソチオリンピックから東京オリンピックに向けて学ぶこと

2014年3月5日

  • ロンドンリサーチセンター シニアエコノミスト 菅野 泰夫

今回冬季オリンピックが開催されたソチという町は、もともとは夏のビーチリゾートとして有名な場所であり、日本で例えると宮崎のような所だ。プーチン大統領の別荘があった由来もあり、近くにあった北カフカスの高い山々に目をつけ、オリンピックに合わせ急遽ゲレンデを増設したといわれている。実はロシアにはスキー場はほとんどなく、スキーといえばクロスカントリーが主流である。ロシア人にスキーのマネをしてというと、多くがスキー板を履いて歩き出す仕草をするからすぐわかる。またゲレンデがないのは筆者の勤務する英国も同じで、特にイングランドでは、山らしい山もなく雪もほとんど降らないため、スコットランドにでも行かなければスキーは、なかなかできない。英国人が雪上種目でメダルを獲得したのは、今回のソチが史上初めてだったというのも妙に納得できる(スノーボードスロープスタイル女子のジェニー・ジョーンズ選手の銅メダル)。

ロシアでは今回の冬季オリンピックを手始めに、その跡地でのF1グランプリ(2014年)、サッカーワールドカップ(2018年)と、世界的なスポーツイベントが次々開催される。今回のオリンピック効果も重なり、さぞ景気が良くなってきていると思われがちだが、昨今、ロシア経済の成長力は大きく低迷している。2012年後半から始まったロシア経済の減速は、2013年に入ってより鮮明となり実質GDP成長率は1.4%と、2012年の3.4%と比べて大きく低下している。経済停滞を示すシグナルは多く、鉱工業生産指数は、時折マイナスに転じている。また買い物好きなロシア人の消費は変わらず堅調であるが、投資は大きく減少している。これは数々の世界的スポーツイベントに向けて行われたロシア開発銀行主導のインフラ投資が、結果的に民間投資の拡大余地を奪うクラウディングアウトをひき起こしたものと思われる。今回のオリンピックは、6年後開催される東京にとって反面教師となる点も多い。

ただし、さすが芸術の都を多く抱えるロシアだけあって、数々の演出には学ぶべき点が多い。特にこのオリンピックでロシア人にとって最も記憶に残る演出は、閉会式の最後に、1980年のモスクワオリンピックと同じテーマソングである「ダ  スヴィダーニァ(さよなら)モスクワ」が流れ、ミーシャ(モスクワオリンピックの熊のマスコット)の「孫」が別れの涙を流した瞬間であろう。これはモスクワオリンピックの閉会式と全く同じ演出であり、当時は西側諸国の多くがボイコットしたことに対して、マスゲームで表現されたミーシャが一粒の悔し涙を流したのである(多くのロシア人はそう解釈した)。史上最多の88カ国が参加した今回の大会で、当時の悔しい思い出を塗り替えるため同じ演出を選択し、事実上ロシアで初めて成功したオリンピックを印象づけている。モスクワオリンピックから30年以上が経過し、多くのロシア人と同様ミーシャの「孫」は若干太ってオジサン化していたが、ほとんどのロシア人が感動した瞬間であった。

6年後の東京オリンピックの時には、最近ロシア語がどんどん上達している娘が、日本語-ロシア語の通訳のボランティアに参加して、東京オリンピックの開催に少しでも貢献してくれればと思う。またそれよりも、最近ロシアンクラシックバレエを習わせ始めたので、むしろ開会式での演出に参加することを狙って、頑張ってくれたらなあと思う今日この頃である。

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