日本株が持続的な上昇を続けるための条件

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2014年02月17日

  • コーポレート・アドバイザリー部 主席コンサルタント 太田 達之助

2013年は日本株が上昇した一年であった。年間の株価上昇率は約56%(日経平均株価ベース)と主要国の中で最大の上げ幅となった。2014年は年初から調整色を強めているものの、年末にかけて株価が上昇を続けるという強気の見方が依然として強い。

一方で、昨年の日本株上昇と円安進行の予想を的中させた米著名ストラテジストのバイロン・ウィーン氏は、2014年の日経平均株価を「早い段階で18,000円を突破した後、年後半に20%以上調整する」と予想している。また干支にちなんだ相場の格言では、「辰巳(たつみ)天井」、「午(うま)尻下がり」といわれており、2013年(巳年)から2014年(午年)前半に株価がピークを迎えるのではないかと懸念される。

「干支と相場を結びつけるなんて、根拠のない戯言ではないか」と筆者もかつては思っていた。ところが、戦後復興から高度経済成長期が終焉を迎えた1970年代以降、景気の落ち込みが6年周期で来ていることに気がついた。1973年のオイルショック、1979年の第二次オイルショック、1985年の円高不況、1991年のバブル崩壊、1997年のアジア通貨危機と金融危機、2003年には日経平均が7,607円まで急落、リーマンショックは2008年9月に来たが日経平均株価の終値ベースでのバブル後最安値は2009年の3月に記録している。こうして見てみると、次の不況が2015年に来てもおかしくない。「次の次」にあたる2021年が、東京オリンピックの翌年だというのも嫌な予感がする理由のひとつである。ちなみに前回の午年である2002年の日経平均株価は約19%下落、前々回の1990年には約39%下落している。

株価の主要な決定要因である企業業績はどうであろうか。2013年度第三四半期の業績発表が出そろったが、今期の企業業績は大幅な増益となる見込みである。4月の消費税増税前の駆け込み需要も、少なからず業績にプラスになるだろう。ただし来季以降の見通しについては、景気回復が期待されているものの、現時点で正確に予測することは困難である。

そこで視点を変えて、長期投資の対象として日本株が相応しいものだったかどうかを検討したい。預金や債券投資よりリスクの高い株式に投資するには、リスクに見合ったリターンが必要だ。つまり、投資時点で期待される株式の投資収益率が、金利水準と比較して十分に高いことが条件になるのである。

昨年一年に限っては高かった日本株の投資収益率は、長期的にみると高い水準とはいえない。NYダウなど主要国の株価指数は昨年後半に軒並み史上最高値を更新したが、日経平均株価は最高値には遠く及ばない。バブル期のピークの株価が異常に高かったことや日経平均株価が2000年に採用銘柄の大幅な入れ替えを行ったことの影響を排除するために、1991年以降のTOPIX(東証株価指数)で分析を行っても結果に大差がない。過去20年あまりにわたって、2000ポイント強から1000ポイント弱のレンジで周期的に上下動を繰り返している。この事実から言えることは、1990年代以降の日本株は短期投資(トレーディング)の対象としてはともかく、長期投資(インベストメント)の対象としては適していなかったということである。

なぜこのような結果になるのか。最も大きな要因は、日本企業の利益成長率が低いからである。一般に利益成長率はROE(自己資本利益率)×(1-配当性向)で表せるので、長期的にはROEの水準が利益成長率を決めることになる。日本企業のROEが低いことはよく指摘される事実であり、その原因については様々な分析が行われているが、欧米や日本を除くアジア諸国の企業経営者と比べて、日本企業の経営者がROEの向上に本気で取り組んでいないからではないかと筆者は考えている。

100年以上の歴史を持つグローバル企業であるIBMのROEは非常に高い。2011年~2013年の3年平均のROEは79.2%にのぼり、平均的な日本企業の約10倍に達している。有利子負債を積極的に活用しながら、自己資本額と同水準の営業利益を計上し、純利益に匹敵する株主利益配分を行うなど、やり過ぎと思える程ROE向上に取り組んでいるのである。創業以来28年間無配を続けていたマイクロソフトが、2004年に320億ドルの巨額の特別配当を実施したり、10年ぶりの減益となったアップルが、昨年大幅な増配と自社株買いで550億ドルの株主配分を発表したり、米国企業の財務戦略は実にユニークである。

一方、日本企業の財務戦略は画一的である。事業リスクや財務内容に関わらず配当性向を20~30%に設定し、必要以上に資本を蓄積させている企業が目立つ。事業戦略においても、利益を犠牲にして売上成長を各社横並びで目指すために、競争激化から低収益になっている企業が多い。

このような企業行動がROE向上を阻んでいるとしたら、改善する必要があるだろう。日本株がトレーディングの対象からインベストメントの対象になるためには、「利益成長率」を高めるために、企業経営者がROE向上に真剣に取り組むという風潮を定着させることが重要である。

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太田 達之助
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