デファクト・スタンダード

なぜ右側歩行が守られないのか?

2014年1月10日

最近、通勤途中で気が付いたことが2つある。

1つめ。自宅から最寄駅までの通勤路でのこと。筆者が利用するのはお寺への門に通じる1キロ弱の路で4メートル幅といったところ。朝は通勤のための自転車が多く、中にはスピードを出す人もいてちょっと危ないなと感じていた。路には数百メートルの間に3つ同じ看板が掲げられていて、それには大きく「歩行者は右側、自転車は左側」と書いてある。これに気が付いたのは数か月前で、それ以来、筆者はなるべく右側歩行を励行しているのだが、なぜか実際には、この路では7、8割くらいの歩行者が左側を歩いている。歩行者は右側というのは常識のようで実際は違うことに気が付いた。

交通規則を守るのであれば、歩行者は右側、軽車両である自転車は左側ということになるだろう。この路に設置された3つの看板はそのルールを再認識してもらい、自転車と歩行者の衝突などの事故を避けようという趣旨で設置されたのだと思う。最近、自転車と歩行者の事故が多くなっているとのことなので、その対策と推察する。しかし、歩行者の多数は依然として左側を歩いている。残念ながら、看板の効果は小さいようだ。

なぜ、この通路で左側歩行する人が多いのかはまだよくわからない。右を歩くことに比べて左を歩くことに何らかの利便性があるとも思えない。ただ、左側通行している人は、付和雷同しているだけのようにみられる。実際に歩行者の行動を観ていると、横の路地から出てきた人はその路に入ると、前をすでに多くの歩行者が左側通行しているので、そのあとを追うように左側に寄って行っているようだ。おそらく、何らかのきっかけがあって、右側歩行する人が一時的にでも増えれば状況は変わるのかもしれないが、3つの看板は左側歩行がデファクト・スタンダードになっているこの状況を変えるきっかけにならなかったようだ。自然発生的に慣習として確立されていることを変えるのは難しい。

2つめ。これも似たような事例であるが、東京駅の地下ホームからのエスカレーターの使い方である。いつのころからだろうか、エスカレーターで立って乗る人は左側によって右側を開け、急ぐ人は右側を歩いて上ったり、下りたりするようになった。古くからロンドンの地下鉄では行われていた慣習で、いつの時点かははっきりしないが、日本でも広く行われるようになっていると思われる。

数か月前からだろうか、危険なのでエスカレーターを歩かないようにとのアナウンスが始まった。朝の通勤時間帯には、一時は警備員も配置されて、エスカレーターを上らないようにとの再三のアナウンスが行われたが、状況は変化しなかった。エスカレーターを急いで上り下りすることは確かに危険であろう。しかし、あえて道を塞ぐように立つ人はいないし、道が空いていれば、上り下りする人は出てくる。アナウンスで呼びかけても、変わらないのは、「立って乗る人は左側によって右側を開け、急ぐ人は右側を歩いて上ったり、下りたりする」ことが、すでに地下ホームエスカレーターのデファクト・スタンダードになってしまっているということだろう。

経済行動の面でも同様の事情があるのではないだろうか。集団の慣習として成立している経済行動を変えさせるためには、単に呼びかけるとか規則を制定するといった方法では難しく、変えることへのインセンティブ、変えないことへのペナルティを明確にかつ十分に与えるなど工夫が必要であろう。今の日本の経済情勢はデフレ克服にゆっくりと向かっていると思われるが、賃金をめぐる状況や消費税の価格への反映など、長期的なディスインフレのもとで慣習化した企業や個人の経済行動を変化させることが必要だ。そのために、呼びかけに留まらない何らかの工夫=施策を期待したい。

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