『半沢直樹』にみる理想の女性像?

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2013年10月23日

  • 河口 真理子

社会現象ともなったドラマ『半沢直樹』。『倍返し』という言葉とともに不正を暴く銀行マンとしての半沢直樹の活躍が注目され、さらにあれだけ活躍したにもかかわらず出向を命じられたエンディングが話題になった。番組のサイトを見るといまだにファンからのメッセージが続いているようで、その影響の大きさに驚く。筆者は、たまにしか視聴していなかったが、勧善懲悪型のドラマの展開は楽しませてもらった。しかし、見終わってからある違和感が芽生えてきた。あまり指摘されていない点だが、半沢直樹の妻「花」の描き方である。

ドラマの公式サイトの人物紹介によると、彼女は「フラワーアレンジメントの仕事をしていたが、結婚を機に専業主婦となっている。東京でも社宅住まいで、付き合い上こちらの奥さま会にも閉口しつつ参加し、少しでも半沢の力になろうと努力している」とある。番組の中でも彼女がパートタイムでアレンジしたフラワーアレンジメントがステキだったので、才能があるのになぜフルタイムで仕事しないのか?と問われるシーンがあった。彼女は『私は、夫を支えながらの今の働き方でいい』という趣旨の発言をしていたように思う。その時は別に何も思わなかったが、先日とある女子会で半沢直樹の話になったとき。花の立ち位置が話題になった。

花は、自身に才能がありその気になればバリバリやっていけるにもかかわらず、その立場を捨てて、正義感が強く有能な夫を支える妻であることに本人も納得している。たしか、最終回で半沢の窮状を救うのも彼女が奥さま会から仕入れてきた情報だったように記憶している。

そして一方、半沢直樹の仇敵大和田常務は、群を抜いて切れ者で出世頭だったにもかかわらず、妻が経営する会社の窮状を救うため不正融資もしてしまう。まあ彼の不正はそれだけではないが、彼に同情的に考えてみると、通常メガバンクで出世する男性は仕事が大変で家庭を顧みる暇もないと思われ、フルタイムでそれも会社を経営するようなキャリアウーマンを妻にすることは稀なのではないか。現に筆者のまわりの金融機関で勤める男性の妻は9割以上専業主婦である。特に大学同級生の銀行マンは100%専業主婦に支えられている。女性の立場から逆にいえば、有能なキャリア女性を妻にしつつ自身もしっかり出世できる男性の方が、専業主婦の妻に支えられないと仕事が十分にできない男性より、魅力的とも思えるのだが。まあその出世の手段が不正であったら困るのだが。

特にドラマの制作者が女性にそうした役回りを意図的に与えたとは思わないが、「不正に立ち向かう正義の味方の有能な夫と、自分の才能を抑えても夫や家庭を優先させる明るくかわいい妻」が理想の夫婦像。そして、「十分な能力もないくせに、自分で事業をやろうなんて女は結局有能な夫の足を引っ張る悪女」そんなメッセージが暗にあるように思える。

たかがドラマでそんなことで目くじらを立ててどうする?とは言われそうだ。しかし上戸彩は女性から見てもかわいく、違和感なく感情移入してドラマは観られた。この9月厚生労働省から発表された、若者の意識調査(※1)によると、34%の女性が専業主婦希望だというし、半沢直樹が社会的ブームになったことを考えると、このドラマの女性、特に花の生き方のサブリミナル効果は無視できないように感じる。

でもまあ、片や自立した女の子のドラマ「あまちゃん」もブームになったことを考えると問題ないかな。

(※1)『少子高齢社会等調査検討事業報告書(若者の意識調査編)

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